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(とりあえず使う名乗り)
コミケ93に参加します。
12月31日(日) 東ポー20b『玉造屋バキューン』です。
新刊は短編小説『女の子は神様で――』
今回、コピー誌なのですが、分量自体はいつものオフセットと同じ程度になります。
お得!
ジャンルとしてはややホラーになります。
巫女は出ますがそれは概念的な……
以下、あらすじと序盤を収録した予告編になります。
興味を持っていただけた方はぜひぜひお越しください!
■あらすじ
愛子たち、仲のよい四人の女子高生は今日も一緒に動画を観たり、
だらだらと喋ったりして過ごす。
変わらない日常。
しかし、四人の一人、エリに彼氏ができたこと、
そして奇妙な動画を見たことでわずかずつだが変化を始めてしまう。
それも致命的な形で。
以下、予告編です。
『突撃! 本職巫女が聖域とか攻めるぜ! ……ということで、本職巫女くーにゃんです。おっと、顔は見せられないぜ。なんせ本職なので顔バレはNGなんです。いつもどおりご勘弁を。わかっちゃった人はほんと黙っててくださいね。お願いします。ということで……あ! 二回言っちゃった! グダってます。ともかく、前回配信の予告どおり。今日はO府S市某所の廃神社に来ています。例によって明治の神仏分離の影響で潰れちゃったようで。仏教との結びつきが強い神社だったんだろうなー。って、これほとんど場所わかっちゃうんじゃ……ま、いっか』
投稿動画の自称本職巫女さんは今日もトレードマークのマスクをつけて、廃墟アタックしていた。マスクっていっても、風邪予防のマスクみたいなものだから、ほとんど顔は見えているのだけど。
「ほんとに本職だと思う? 嘘じゃね? どう思う。愛子は」
「へっ?」
不意に名前を呼ばれて変な声が出た。高校二年生女子の声にしてはあまりにかわいくないと反省する。
放課後の教室。動画投稿サイトの『突撃本職巫女! 第65回』を再生していた、机の上のスマホから顔を上げれば、見慣れた顔がのぞき込んでいた。
時々小学生と間違われるほどの童顔に、それを引き立てるツインテールの髪型と、そんなかわいらしい顔に似合わない眉間に寄せたしわと、片眉だけ上げた表情。そういうギャップのあるいつもの顔つき。
「ユーちゃん」
名前を呼んだけど、投稿動画を非難しているユーちゃん自身は、その投稿動画から視線を動かさない。机の上にあごを乗せるような姿勢でじっと見てる。
「嫌いだったっけ? くーにゃんの動画」
「嫌いなんて言ってないじゃん。でもさ……なんかうさんくさいんだよなぁ。時々、よくわからないこと言うし。廃墟の由来とかどーでもいいよねー。そのへんがなー。最近、廃墟じゃないことも多いし、ブレてね?」
文句を言いつつも、ユーちゃんはやっぱり目を離さない。
「ユーは、文句を言いたいだけだ。いつもと同じで」
言ったのは、わたしの後ろに腕組みで立って動画を眺めていた女の子だった。
呆れた顔で肩をすくめる。ため息交じりに眼鏡をかけた目でユーちゃんを眺めているのは智ちゃん。わたしたちで一番の長身にクールな顔は、ポニーテールがよく似合っている。
「なんだよー。智」
振り向いたユーちゃんが子どもっぽくほっぺたを膨らませる。
「うさんくさいのは確かじゃん。動画はけっこうおもしろいけどさ。ほら、巫女さんの恰好とか意味とかないし」
「ユーが巫女に詳しいとは初耳だ」
膨れたユーちゃんと、腕を組んで見下ろす智ちゃんがわたしを挟んで睨み合う。ぶつかる視線で焦げそう。
「私はこのくーにゃん。本職というのは嘘じゃないと思っている」
智ちゃんは断言する。
「なんでさー」
「それは、どうして?」
思わずわたしも一緒に聞いていた。
智ちゃんはすっと息を吸った。考えを整理しているのか視線を巡らせて、組んでいた腕を解く。それから眼鏡に触れて、口を開く。
「巫女というのは現代の日本では神社に勤務して、雑務や巫女舞いを担当する役職だ。ほとんど助勤と考えていい」
「もうわからないから、かいつまんでよ」
ユーちゃんが非難の声を上げる。
「お手伝い的な役割が多いということだ。大きな神社でお正月や祭礼の時だけ雇われるバイトならよけいな。だけど、本職の場合、様々な儀礼のためにも、神道や神事の知識、作法が求められる」
智ちゃんは動画に目をやる。本職巫女のくーにゃんは廃校のはずなのに、机がびっしりと並んだ薄暗い教室に立っていた。物音に「ひぇぇぇっ! うわぁぁぁ!」と悲鳴を上げる。くーにゃんはいつもオーバーアクションだ。
智ちゃんはまた肩をすくめて眉間を揉む。
「あんなのだけど」と、前置きする。
「時々、神道の話をするが。私が見る限りでは、その知識は本物だ。あるいは本物に見えるほどのマニアか」
「へー。さながら巫女さんじゃん。本職かよ」
「だから、そういう話をしているんだろ。そもそも、ユーはいつも――」
智ちゃんの言葉をスマホの着信音が遮った。
わたしのスマホは机の上で、半泣きになって廃神社を走って行くくーにゃんを映しているし、着信の表示はない。ユーちゃんでも智ちゃんでもない。
自然、わたしたち三人は音のほうを振り返った。
「あ……ゴメンなさい」
慌てた声を上げたのは一緒に動画を見ていたもう一人の友達。
申し訳なさそうに眉を下げた表情が、もともと大人びた顔になんともいえない色気みたいなものをかもし出す。身長は智ちゃんのほうが高いけど、制服の冬服、セーターとブレザーを着ていても一目瞭然の大人っぽいにもほどがある立ち姿……一言で言うとモデルになれそうなそういうの。
アメリカ人と日本人のハーフかつ、なんだかいいとこどりみたいな遺伝をしちゃった人はもう全てが違う。
そして、そういう見た目と裏腹に、着信のあったスマホを持ってあわあわしている姿。ずるい。智ちゃん曰く、「お前、エロくて、あざといんだよ」
わたしたち三人は思わず顔を見合わせて、それぞれ苦笑してしまう。
「電話でしょ、エリちゃん」
「あ、うん。そうですけど」
「動画なら止めておくからさ」
まだもう少し迷ってから、「それじゃ」と両手を合わせて、エリちゃんは電話に出た。
「あの……。あのですね。うん、わかってます」
電話しながらチラチラと申し訳なさそうにこちらをうかがう。
エリちゃんらしい。周りに気を使い過ぎる反応。電話ぐらい誰も気にしないのに。
ユーちゃんは白い歯を見せつつ、うんざりしたような態度をとるだけとる。
智ちゃんは黙ったまま、エリちゃんをチラリと見ただけ。
わたしは別に気にならない。
電話が終わった。
エリちゃんは困った様子の顔をこちらに向ける。
なんとなくわかってた。
何か言おうとしたエリちゃんの後ろで教室のドアがガラガラと開く。
顔を出したのは、これも見知った人だった。
童顔の男子生徒で、わたしにとっては十年ぐらいずっと見てきた顔。
「ゴメンね。エリスさん、ちょっと借りるよ」
当たり前みたいに軽く言ってるけど、ほっぺたは赤いしちょっと声も上擦ってる。
照れるならやめておけばいいのに……。
「シュ、シュンくんが謝らないでください。時間勘違いしてたはわたしで……」
エリちゃんがうなだれる。
「あ、あのですね……」
「見ればわかるよ」と、わたしは肩をすくめつつ、エリちゃんじゃなくて、十年単位で見慣れた顔を――シュンのほうを少し睨む。
また照れた顔をしてはにかんだ上に頬をかく。そうじゃなくて。
どうせシュンがちゃんと時間とか言ってなかったんでしょ? と言いたかったのに、伝わってない。あの子はもう……。
「はいはい。お付き合い初めて一ヶ月のカップルー。ごちそうさまでした」
ユーちゃんはお菓子を食べ過ぎた子どもみたいな顔をする。
「私たちは気にしないから」
智ちゃんは表情も変えない。
「じゃあ……。また明日ね」
エリちゃんは控え目に手を振ると、シュンと一緒に教室を出て行った。
何度か振り向く。だから、そんなに気にしなくていいのに。
エリちゃんたちを見送って、わたしとユーちゃんと智ちゃんはなんとなく顔を見合わせる。それからそれぞれ肩をすくめたり、ため息をついたり。
「ま、彼氏できたらしゃーねえよなぁ。女の友情の脆いこと脆いこと」
ユーちゃんは椅子の上にあぐらをかく。顔は幼いけど、ちょっとオヤジくさい。
「動画。続きを見る?」
わたしのスマホは机の上に置いたままだった。ディスプレイの中では本職巫女のくーにゃんが泣きそうな顔で走っている姿で停止している。
再生しようと手を伸ばす。
「でもさ。もうここで観なくてもよくね?」
ユーちゃんの言葉に手を止める。
「お茶とか行こうよ。悔しいじゃん。カップルに見せつけられてさ」
イッヒッヒと変な笑い方。
「独り身三人でスイーツデートしようぜ。インスタにアップしてやろ。あたし、インスタやってないけど」
「独り身って……」
同じにするなとか、失礼なとか言いたいけど、実際独り身なので反論できない。
「智ちゃんはどうするの?」
しかたなく尋ねれば智ちゃんは、どちらでもという仕草を返してきた。
わたしたちは頷き合うと、鞄を手にして学校を出た。
夕方の通学路で、いつもの放課後、いつものメンバー……と言いたいけど、エリちゃんがいない。
でも、高校に入ってから一年間ずっとこんな感じ。
「それにしてもさー。言いにくいけど。まあ、なんてーか。愛子ほんとにカワイソ!」
「わたし?」
ユーちゃんがいきなりわたしの名前を出すので、目を瞬かせてしまう。
「だって、愛子さ。好きだったんでしょ。エリの彼氏。シュンのこと」
「うへぇんっ!?」
かなり変な声が出た。
「そ、そんなこ、と。ぜ、ぜんぜん!」
「しかも、幼馴染だったのにさ。あー。残念だよね。現実じゃ幼馴染とはなかなか恋愛になんないよなー。愛子ー。よしよし」
ユーちゃんに頭を撫でられる。一生懸命背伸びして。無理しないで。
「ち、違うもん。別にわたし、シュンのこととか好きだったりとか、そんなの……」
「いいから」
智ちゃんが珍しく人を思いやる目をして、肩を抱いてきた。
「今日は愛子を慰める会だ」
「いいね。あたしもそれでいこー」
「だ、だから……! もー!」
撫でられたり、肩を叩かれたり。
否定はするけど、感謝はする。
エリちゃんからも『ほんとにゴメン! 今度、絶対埋め合わせしますから!』とLINEにメッセージが届いていた。
ここにいないエリちゃんも含めて、わたしにはもったいない友達。高校生になって多分、初めてできた親友だと呼べる女の子たち。
そんな四人での変わりない日々は今日も続く。
そう思ってた。
「何これ……」
夜。わたしはくーにゃんの新作を見ていた。
くーにゃんはいつもの巫女装束を着ている。トレードマークのネコっぽいマスクもいつもと同じ。
「――とよあしはらのちあきのながいほあきのみずほのくにはいたくさやぎてありなり」
何を言っているのかわからない。歌うように語って、語るように歌って、くーにゃんは踊っていた。巫女舞いらしいけど、だけど、見ていて不安になる。胸の奥底から湧き上がってくる寒気のような、熱のような何かに思わず自分自身を抱き締める。
いつもの動画と違って、くーにゃんがどこにいるのかもわからない。
ただただ暗いどこか。白い着物と袴の赤い色だけがその中でやけに鮮やかだった。
くーにゃんと目が合った気がした。
動画の中でこっちを見ていた。でも、そこには何の感情もなかった。目の形はわたしたちと変わらないはずだけど、ぽっかりと穴が開いているみたいで、
「かれこのくににちはやぶるあらぶるくにつかみどものさはにありとおもほす。とよあしはらのちあきの――」
歌は続く。
変わらない毎日が変わったのは、この時だったかもしれない。