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告知遅くなりましたが、コミケ89に参加します。
12月30日(水) 東ポー52b『玉造屋バキューン』です。
『ポ』です。『ポケットの中の戦争』の『ポ』
新刊は短編『救世主とて恋は知らぬ』
かけあいと勢いと変な設定重視のラブコメだと思います。多分!
お暇がありましたら、お立ち寄りいただければ幸いです。
以下、あらすじと本編冒頭部分の予告編になります。
■あらすじ
彼女をサポートするのは、その先輩。
だが、そんな彼女が(自力で)察知した次なる世界の危機は、ヨロズも先輩も驚くものだった!
世界の危機と色恋を秤にかけてしまう物理的セカイ系ラブコメ! 多分!
以下、予告編です(下のNEXTから)
本文入稿前のバージョンなので、多少の差異があります。
また、ルビなどは入れていません。
この地下空洞を照らす光の下、ビチャビチャと粘液を垂らしながら、小山のような肉塊が蠢く。
俺はその悪臭に吐き気をもよおした。
何かに似ているというなら、イソギンチャクに近いが、そいつはあまりに禍々しい。
肉の塊にはいくつもの口がある。乱杭歯が並ぶ、人間のものに似た口が開いた。
「「自ら生贄として訪れるとは」」
声が重なる。何十、何百とある口が一斉に喋っていた。重なりながらも、わずかにずれて聞こえる声はただただ不快な響きを伴う。
喋る端から粘る粘液が滴っていた。
「「だが、ちょうどよい。男は殺し、喰らう。女は犯し、我が眷属を孕ませる。自らを供物として訪れた汝らを褒めてやろう」」
「自惚れたバケモノだ」
呆れた顔をした。
こいつ……いや、こいつらが何者か、俺は知っている。
黄泉と呼ばれるこの地下深く、六百年に渡って封じられた存在。
ひとたび解き放たれれば、この世界に途方もない災いを振り撒く。かつては神と呼ばれたこともある者だ。
「「さあ、まずは汝を……」」
「先輩! 着替え終わったよ!」
バケモノの言葉を遮り、やけに明るい声がした。
この地下深く、醜悪極まりないバケモノの前には似合わないにもほどがある。
バケモノも思わず言葉を止めた。
振り向けば後ろから走ってくる見慣れた顔。
どう考えても場違いな、明る過ぎる笑顔。
美人だが、その表情のせいで美人にありがちな冷たい印象はまったくない。
腰に届く艶やかな黒髪がふわりと揺れる。
まとうのは、薄闇に慣れた目にまぶしい、穢れのない白と、鮮烈な赤の衣装。
「遅いぞ。ヨロズ」
巫女装束を着た後輩、万象ヨロズを睨みつける。
「あうっ!? 先輩、怖い! 普通にしてても、気難しそうで冷たそうで胃痛堪えてそうな顔が、なおさら怖い! 袴はくのちょっと苦手で……えっと」
俺の顔を悪く言ったあと、ヨロズは気まずそうに目を逸らす。
「そんなことより、このバケモノめ! 何が神だ!」
ヨロズはバケモノのほうを指差した。
誤魔化すな。指差すな。
「とにかく今からお前を殺す! それが《布津》たるわたし!」
言うが早いが、ヨロズはバケモノ目がけて駆けだした。
長い黒髪をなびかせ、俺の横をすり抜ける。
バケモノとの距離が瞬く間に詰まる。
「「元気のよい女だ」」
バケモノが身を震わせ、無数の触手をヨロズ目がけて放った。
粘液を滴らせた触手が四方八方からヨロズを襲う。
かわせる数じゃない。
対して、ヨロズは迫る触手をおもむろにつかんだ。
引き千切った。
さらに別のものをつかんで引き千切り、踏み躙る。
……噛み千切るなよ。
触手はヨロズを捕らえることができない。近づいた端から千切り飛ばされていく。
触手から噴き出した泡立った粘液が、汚れひとつなかった巫女装束や、黒髪を汚しただけだ。
だが、バケモノは狼狽えなかった。むしろ、いくつもの口からククッと嫌な笑い声が漏れる。
「「かかりおったわ。我が体液は汝らにとっては淫毒。男を殺し、女を狂わせる。汝はもはや」」
「くっさ! 吐きそう! 許さない!」
体液で汚れた袖の臭いをわざわざ嗅いで、毒づいた。
「「な……? 淫毒で、女を狂わせ……」」
「わたしはだいたい毒無効なの! できちゃうの! フグの踊り食いをスリリングな遊びとにするぐらい!」
「「待て! 我のはそういう毒では……」」
「うるさい! 死ね!」
容赦なく肉薄したヨロズの拳が肉塊にめり込んだ。
バケモノがまたくぐもった笑い声を漏らす。
「「愚かな。そのような児戯が神である我に……」」
「だから、直接送り込むの! 穢れ祓いの祝詞ってやつを!」
「「なっ……」」
「タカマノハラニ……死ねぇっ!!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
バケモノが爆ぜ、塊が飛び散った。
あらかじめ退避しておいてよかった。
岩陰に隠れた俺のもとに、ヨロズがやって来る。
笑顔でパタパタ手を振っている。
「先輩。殺ったよー。アホのくせに変態のとんだ淫獣だったね。わたしシモネタ大嫌い。ああいうの、なんで生きてるんだろ?」
「神代に生を受け、万を超える人間を千引きの岩の向こう側へ引き摺り込み、国ひとつを犠牲として辛うじて封じたかつての神なら今しがた死んだがな」
「ふーん。すごいね」
心底感心した顔のヨロズにペットボトルの水を渡す。
肉と体液にまみれた手でそれを受取ろうとして、「あ……」と、ヨロズは呟いた。
「墳っ!!」
そして、気合を入れると全身を汚していた肉塊も白濁した液体も消滅した。
蒸発したわけでもない。文字通り消滅したのだ。
綺麗になった手でペットボトルを受け取って、水を一気にあおる。
「プハー。この一杯のために……」
「ゆっくりはできないぞ。予定が詰まっている」
タブレットに目を落として告げる。
「えー! こんな地下深くまでがんばってきたのに」
「次はヒルズの屋上だ。悪魔の王が目覚めるぞ」
「そうだっけ?」
「お前が予言したんだ。行くぞ」
歩き出すと、「待ってよ、先輩ー!」と、ヨロズはトコトコついてくる。
◆ ◆ ◆
夜の東京を見下ろす高層ビルの屋上。そこにあるヘリポート。
夜の闇に輝く、数々の街灯りを背にして、そいつはいた。
数百年に一度訪れる星々の配列、そして、あらかじめ計画されていた高層ビルを用いた都市魔法陣がそいつを招いた。
背中には六対、十二枚の光り輝く翼。
悪魔の王とは思えない神々しい姿。明けの明星の異名を持つその輝きと美貌は見るものの魂を穢す魔性。
……だった。三分前まで。
「くっ……! バカな!」
うめいた悪魔の王の美貌はパンパンに腫れ上がって見る影もない。魂もあれでは穢れない。
腫れ上がらせた犯人――ヨロズはそいつのマウントをとって、拳を振り上げていた。
巫女装束のままだが、頭には慌ててかぶった魔女の三角帽子が斜めに乗っている。
「人間如きが、このような……! 私はかつて神にはんぎゃ」
ヨロズが拳を打ち下ろす。
「はんぎゃーっ!!」
「人が操る魔法はついにその源たる悪魔を超えたってこと! だから死ねぇぇぇっ!!」
肉を打つ音がする。
「その帽子だけで魔女のつもりか! おざなり過ぎるぞ、貴様!!」
「そのとおり! だから喰らえこの魔力! そして、この魔力!!」
また悲鳴が上がる。
だが、何度も肉を打つ音が聞こえたあとには、うめきすら聞こえなくなった。
かつて神にはんぎゃした悪魔の王が爆発する。
「腕と足を折ってからだから簡単だったね」
今頃、魔女の帽子を正して、ヨロズが戻ってきた。
「終わったー」と、伸びをする。
「魔女のローブも用意していたのに、横着をしたな」
「ゴメンね。だって、巫女装束脱ぐの面倒だったから。袴はくのも脱ぐのも苦手なんだもん」
ペロリと舌を出す。
「でも、とにかく、今度こそこれで終わ……」
「次は異世界だ」
言い放つと、ヨロズは「えー」と声を上げる。
だが、すぐに気を取り直した顔をした。
「じゃあ、速攻で殺っつけて、残った時間で異世界観光を!」
「さっきも言ったが、予言したのはお前だ。来るぞ」
首を傾げたヨロズが「あっ」と声を上げた。
「こっちに来るんだ……」
見れば、先程悪魔の王を召喚した場所、都市を使った魔法陣の中心が再び光を放っていた。
そこから強大な何かが来るのがわかる。
人間……いや、地球上に存在する全生物を超越した何かだ。
「先輩ぃ。面倒だよぉ」
「人類のためだ」
露骨に嫌そうなヨロズの頭をポンと叩く。
ヨロズは深い溜息をつくと顔を上げた。
「しょうがないなぁ」と肩をすくめたあと、右手を掲げる。
「来たれ! 救世の刃、アス……! アスなんとか!」
「アスカロンだ」
それが空間を破り、姿を現す。
この世界とは異なる次元で鍛えられた、救世の運命を背負う伝説の剣……
「おい。伝説の剣、ハンマーになってるぞ」
前に見た時はこの世のものとは思えない美しい剣だったはずなのに。
「なんか剣って好きじゃないの。だから、打ち直しちゃった」
「異なる次元で最後の神鉄と魔族を生贄とした魔鉱を入り混じらせ、鍛冶の神の末裔が鍛えた剣だぞ」
「できちゃった」
ヨロズはちょっとした悪戯したみたいな顔でペロッと舌を出す。
それから、取り出したサインペンで、ハンマーに『アスカロン』と書いた。
……アルファベットを使おうとして諦めて、ペケを入れるな。おざなりなことをするな。
その時だった。
膨れ上がる圧倒的な気配が押し寄せる。
息が詰まり、目を見張る。
先程まで悪魔の王がいたその場所に……
「今日はもう疲れたから、一撃必殺!」
ヨロズがハンマー片手に飛びかかった。
三角帽子に巫女装束。ハンマー片手に異世界の魔王を撲殺している。
「あれが魔王を倒す勇者か」
この世界の半分を壊滅させるはずだった魔王は喋る間もなく殴られて死んだ。
◆ ◆ ◆
「お疲れ」
「わーい! 先輩の手料理ー!」
用意した夕飯を前にヨロズは無邪気に喜んだ。
焼き魚と味噌汁の香りが漂うここは我が家の居間だ。
畳敷きの和室。ムダに大きな座卓を前にして、ヨロズは俺の料理に箸をつける。
「おいしい! 魚おいしい! 先輩、さすが!」
「そうか」
エプロンを外すと、俺も自分の食事の前に座った。
塩鮭と味噌汁に豆腐、ほうれん草のお浸しと和風の海草サラダ。白い湯気を立てる白米。あとは自家製の漬物が少々。
簡単過ぎる夕飯だ。
「手抜きだぞ」
「そんなことないよ。おいしい!」
ご飯を口に運び、ヨロズは言う。
「何がおいしいみゃ。おみゃぁ、料理も鉄人級だろみゃ」
気だるさを煮詰めたような声がした。
食卓を囲むのは、俺とヨロズだけではない。
ヨロズの隣にはもう一人、少女がいた。
高校生のヨロズよりも年下、小学生か中学生に見える小柄な少女だ。着ているものはフリルやリボンで飾った場違いなドレス。
揃えた髪は白い。
そして、頭から伸びる鹿に似た角が、それが人間ではないことを示していた。
「自分で作れるのに、サボりおって……」
「お前も最近は家でゴロゴロしてるだけだろ。ハッカク」
「わちは悪ぅないみゃ! そこの娘が《布津》の役目も全部奪いおったんみゃ。そりゃあ、神鹿のわちも、ダラダラ寝るしかないみゃ」
食事中なのに肘を突く。この神使は行儀が悪い。
「はー。生きてるのもめんどいみゃぁ。さりとて、長生きし過ぎて、消えるは怖いみゃぁ」
「ヨロズ。明日は吸血鬼退治だ」
「みゃー! わちを無視して、明日の予定の話をするみゃぁ」
その言葉自体を無視して、ヨロズにスケジュールを表示したタブレットを差し出す。
「スケジュールの整理もしたい。予言したものをよこせ。《布津》関係はともかく、他の組織への連絡をつけないといけない」
「うん。これ」
ヨロズから受け取ったメモには今後起こるできごとが走り書きされていた。
それをタブレットに登録していく。
「この先二週間で自然災害が二件、異世界が二件、神話系統が三件、古代種の類が五件、テロリストが八件か。忍者はお前がやる必要あるのか?」