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8月14日(日) 東パ―11b『玉造屋バキューン』です。
『パ』です。『オッパイ』の『パ』!
新刊は短編『白羽朔夜に好かれたら?』
不穏な雰囲気の表紙どおり、ホラー作品になっていると思います。
お暇がありましたら、お立ち寄りいただければ幸いです。
以下、あらすじと本編冒頭部分の予告編になります。
■あらすじ
文芸部に所属する姉崎鏡(あねさき・きょう)
彼はある日、教室で巫女装束を着た少女――白羽朔夜と出会う。
初めて見た気がするのに、クラスのみんなが受け入れている朔夜。
どうも訳ありらしい彼女だが、鏡は小説を通して彼女と仲良くなる。
しかし、徐々に鏡の周りで異変が起こり始め……というお話です。
唐突に、ボクは気づいた。
うちの教室に巫女さんがいる。
席のひとつ。机の上に巫女さんが腰かけている。
目に鮮やかな緋色の袴と白い衣。黒く艶やかな髪が机のへりを流れ落ちる。
足を揃えて座る巫女さんの足先は足袋と草履。
もうどこから見ても巫女だ。
当然だけど、龍ヶ淵高校の制服は巫女装束じゃない。普通のブレザーだ。
目が合ってしまった。
高校二年生のボクと多分同い年ぐらいだろう。
前を切り揃えた髪型は少し古風な雰囲気だけど、巫女装束にはよく似合っている。
一言で言えば美人だった。
だけど、美人ゆえの冷たさみたいなもの感じない。明るくて人懐っこい印象の顔がこちらに向けられている。
息を飲んでしまった。
巫女さんが目を細めて笑う。
それから、子供がするみたいにパタパタと手を振った。
思わず手を振り返した。
◆ ◆ ◆
「――ということがあったんです」
「……? 鏡くんはその……いわゆる巫女萌えなの?」
櫛江先輩は真顔で言った。
眼鏡をかけた理知的な美人。ミディアムショートの髪は几帳面に整えられている。
ボクは放課後、文芸部の部室にいた。普段から部員の出席率が悪い部活なので、今日も先輩とボク以外は数人しか来ていない。
ボクと先輩は窓際の席で向かい合っている。
先輩が髪をかき上げる。そのしぐさに思わず見惚れてしまいそうだった。
だけど、櫛江先輩は思い切り顔をしかめた。
「巫女萌え。うわぁ」と、眼鏡の奥の澄んだ瞳もドン引きを隠さない。
「いや…….そうじゃなくて、ですね」
今日、クラスに巫女さんがいることに気づいたとか言ったら、そういう反応も返ってくるよなーとしみじみ思う。
巫女さんは放課後まで教室に普通にいたけど、話をしたわけではなかったし。
「……まさか、ボクの心象が生み出したモンスター?」
「メタファー的な話はいいわ」
溜息混じりに先輩は言った。
「持ってきてくれたのよね? 小説」
「は、はい」
さっきとは別の意味でドキリとした。
今日は約束の日だった。
ボクが小説を完成させたら、先輩は読みたいと言ってくれた。
「でも、ボクのなんかでいいんですか?」
「いいも悪いも。文芸部なのに、小説を書いてる人が少ないのがおかしいのよ。出席率も悪い」
眉間に皺を寄せて、先輩は部室を見回す。
漫画を読んでいた部員が苦笑いすれば、先輩の皺は深くなる。
「それで、持ってきたの?」
「はい」と、ボクは鞄からプリントアウトした紙の束を取り出した。
ボクが――姉崎鏡が初めて書いた小説。
「お願いします」
小説を差し出す手はほんの少し震えていた。
先輩はそれを受け取り、眼鏡を押し上げると、小説の束をトントンと整えた。
「小説読んでもらうの? ひゃあ! 櫛江は厳しいよー」
他の部員の言葉に思わずビクッとなる。
助けを求めて先輩を見るけど、先輩はじっと原稿を見詰めている。集中しているのか微動だにしない。
白い指先が原稿をめくる。眼鏡の奥の眼差しは文字を追っていく。
部室に聞こえるのは先輩と他の部員が紙をめくる音だけ。
運動部のかけ声がやけに大きく聞こえる。
無言のまま小説を読み進める先輩に話しかけることはできない。
胃のあたりを押さえたままで、ボクはじっとうつむいていた。
時間だけがゆっくりと過ぎていく。空気がひりつくようにも感じてしまう。
「邪魔しちゃ悪いね」と、他の部員が帰っていくけど、挨拶する余裕もなかった。
……でも、実は、心の底では嬉しくもあった。
この文芸部は先輩が言ったとおり、学園祭のようなイベントがなければ小説を書く人は少ない。そんな中で先輩はずっと小説を書き続けているし、将来的にはその道も考えているらしい。
だから、ボクは先輩を尊敬していた。小説の話をするのも楽しかった。
そんな先輩に、実際に小説を見てもらえるなんて夢のようだ。
わずかな吐息を耳にして我に返る。
いつの間にか、窓の外は夕日に染まっている。
部室にも差し込む赤い光の中、真剣に小説を見詰める先輩の姿はなんともいえず綺麗だった。
いつの間にか先輩は原稿を読み終えていた。
「遅くなってゴメン」
先輩が顔を上げる。
「いえ」と応えて、気づく。
先輩の表情に翳りがある。
感情表現が薄い先輩だけど、言葉を選ぶようにしながら眉間を揉む姿は、原稿を読む前よりも憂鬱そうに見えてしまう。
迷うように呟いて、黙り込む。
「そう、ね……」
しばらくしてから櫛江先輩は切り出した。
ただ耳を傾ける。
「お話自体はいいと思う。後半の主人公の豹変に読者は驚くでしょうね」
褒められた!
一瞬そう思ったけど、先輩の目つきは険しかった。
「でも……そのストーリーを描くために、キャラクターが犠牲になっている。ストーリーに沿って動くだけの人形ね。結果、この小説は作者にとって都合のいい話に収まっているわ」
息を止めてしまっていた。
自分がどんな顔をしているのかわからない。
「ありがとう」
櫛江先輩が原稿を差し出した。
受け取ろうとした指先がまた震えている。さっきよりもひどい。
先輩はそんなボクを顧みることなく、帰り支度を始めていた。
「あ、あの……」と、辛うじて出した声に先輩が振り向く。
眼鏡の奥の眼差しは興味をなくしたように冷たい。
「おもしろく、なかったですか?」
声はかすれていた。
先輩はすぐには応えない。
鞄を肩にかけ、背筋を伸ばして立ち、まだ座ったままのボクを見下ろして溜息をつく。
「この形だと、あたしはおもしろいとは思わないわ」
冷えた声で切って捨てた。
◆ ◆ ◆
日はとっくに暮れていた。どこで時間を潰していたのかわからない。
あるいは部室を出た時にはもう暗かったのか。
ボクは一人夜道を行く。
胸の奥で熱くて重い感情が脈打つ。
「読みたいって言ったからだ」
だから、まだ誰にも見せる気がなかった小説を櫛江先輩に渡した。
本当はもっと納得いくまで手直しをしたかったし、ちょっと悪いところがあるのもわかっていた。でも、先輩が言うから読んでもらったんだ。
それなのに……。
褒めてくれなかった。けなされただけだった。
もっとアドバイスが欲しいと食い下がったのに、「言うことは言ったわ」と返された。
「なんだよ」
先輩がどうしたかったのかわからない。
自分で読みたいと言ったのに、どうしてこんな酷評しかくれないのか?
……あるいは、ボクの小説は先輩に見捨てられたのか?
いつの間にか家にたどり着いていた。
高校まで電車を含めて一時間以上かかってしまうベッドタウンの一戸建て。
ドアを開ければ、
「遅いぞ」
と、リビングから父さんの声がした。
「ただいま」と言うよりも早い。だから、もう言わない。
「部活だよ」
「文芸部なんて何の役にも立たんだろ。せめて運動しろ。運動」
「うっさいな」
顔も合わせないまま、自分の部屋に向かう。
リビングのほうから怒鳴る声がしたけど、気にしない。
あとで叩かれるか、嫌がらせをされるかもしれないけど。
「やってられるか」
鞄を床に叩きつけて、蹴り飛ばす。
家は嫌いだ。学校も嫌だ。部活だけは好きだったけど、もう嫌になった。
できることなら……どこにも行きたくない。誰にも会いたくない。
むしろ、どこかへ行ってしまいたい。
リビングのほうから近づいて来る足音を聞きながら、本気でそう考えた。
◆ ◆ ◆
「こんにちは!」
昼休みの教室。
目の前に巫女がいた。
この前、手を振り合った教室の巫女さんだ。
固まってしまった。
長い黒髪がボクの机の上に届いている。座ったままのボクと、立って身を屈めた巫女さんの顔までの距離はノート一冊分もない。
美人なのに人懐っこくて明るい笑顔がすぐそこにある。
「えっと」
上擦った声でようやく言えたのはそれだけ。
「朔夜だよ」
「え?」
「白羽朔夜。わたしの名前。……今、名前出てこなかったよね? ひどいよ鏡くん。同じクラスになってもう三ヶ月以上経ってるんだよ」
「あ、え」
「ねー?」と、巫女さん――朔夜さんが言うと、近くの席で話していた女の子が「ほんと」「ねー」と、苦笑する。
「ゴ、ゴメン……」
「すねるよ」
朔夜さんがかわいらしく頬を膨らませる。
それを見て、さっきの女の子たちが眉を下げた。
「でも、しかたないでしょ。白羽さんお休み多いし」「許してあげたら?」
「しょうがないなー」
朔夜さんが悪戯っぽく目を細めた。
「――なんて。もちろん怒ってないよ」
そんな顔もするのか……と、驚いた。
病気がちなところがあって、古風な雰囲気を漂わせる巫女さん。でも、そんな姿とは裏腹にまぶしいほどに明るくて、子供のようにコロコロと変わる表情。
ボクの鼻腔をくすぐるのは甘くて優しい花の匂い。シャンプーやボディソープの残り香とは違う気がする。
この前のように目が合った。
朔夜さんがきょとんとする。
「もしかして……いわゆる巫女萌え?」
「ち、違う! これはその、あれで……」
その時になってようやく、無遠慮に眺めていたことに気づいた。
「あはは。冗談だよ。おもしろいね」
しどろもどろなボクの姿に、お腹を抱えて笑う。
「この服目立っちゃうよね。でも、色々あったの。ちゃんと大丈夫なんだよ。許可とかね」
「そうなんだ……。そうだよね」
考えてみれば当たり前だ。制服以外の服を着ていて何も言われないということは、そういうこと。家庭の事情なのかもしれない。
というか、誰も疑問に思っていないわけだし、知らなかったのも、受け入れてないのもボクだけなのか。
「ねえ」
不意に耳を優しい吐息がくすぐった。
「……っ!?」
喉の奥から変な声が出る。
朔夜さんが耳打ちしていた。
自然、距離はとんでもなく近い。
すぐ顔の傍に朔夜さんの唇がある。
何もつけていないように見えるのに、赤くてつやつやとした唇から息がこぼれる。
動けなかった。
「小説書いてるって、聞いたんだ」
ビクッ! と震えてしまった。
「そ、それは……」
鞄のほうに視線を落とす。
櫛江先輩に酷評された小説。いっそ破り捨ててしまおうと思ったのに、ボクはそれを鞄の中に入れたままにしていた。
「今、持ってるの?」
赤い唇がきゅっと上がる。
朔夜さんの顔にはまた悪戯っぽい笑顔。
ボクの鞄を手にすると、もう一方の手でボクの手をつかむ。
「ええっ!?」
少し冷たくてしっとりとしていて、だけど確かに暖かくて柔らかな感触。
「行こう」
その感触がボクを強引に引っ張る。
逆らえないまま教室を出る。
朔夜さんはボクの手を引いて廊下を駆けた。
そのたびに赤い袴と、長い黒髪がふわりと揺れる。
「行こうって、どこへ?」
「ふふふ」と、朔夜さんはもったいぶりつつも、
「わたしの秘密の場所」
本当に楽しそうに応えてくれた。