ライトノベル作家、八薙玉造のblogです。
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10月14日の関西コミティアに参加します。
スペースはB-26『玉造屋バキューン』です。
今回は珍しくオフセットの新刊を用意しました。
『巫女さんはパンツが般若で狂った世界を救う』
長文タイトルっていうか、なんだかわからないよ!
そんな話です。
なお、健全極まりないのでご安心ください。
以下、今回の新刊のあらすじと、冒頭部分抜粋の予告編となっております。
■あらすじ
箸野草也(はしの・そうや)は、ある夜、神社の境内に、
クラスメイトの潟城桃(かたしろ・もも)を見かける。
彼女は巫女装束を着ていた。
そして袴をまくりあげて、パンツを露出。
そのパンツには赤い般若が描かれていた!
草也と桃の奇妙な関係が始まる気がする!
■予告編
ボク――箸野草也が、路地裏から、坂の上にある神社の境内を見上げると、夜闇の中、街灯りにかすかに浮かび上がる木々の下に、巫女さんがいた。
白い着物に、赤い袴のコントラストが鮮烈に目に飛び込んで来る。
巫女さんは袴の裾を握っていた。
彼女はそのまま、袴をたくし上げ始める。
白衣と一緒に袴がまくり上げられるにつれて、白くて細い脚がどんどん露わになっていく。
ゆるやかな曲線を描く腿のあたりまで、袴が上がる。
両の腿の付け根に白い色彩が見えた。見えてしまった。
それはもちろん、袴と一緒にめくれた白衣の白色とは違う。
「パ、パンツ……いや、ショーツ? つまり、パンツ」
ボクは口走った。
袴をたくし上げた巫女さんのパンツが目に焼きつく。
その色は白衣と同じ、だけど、煌くような光沢を持つ白色。
汚れひとつないパンツの、その清らかさにボクの胸は高鳴る。
暗闇の中、街灯の光がそのパンツをくっきりと映し出す。
だけど、そんなパンツの真ん中に般若がいた。
眉間に刻まれた皺と、ギラギラと輝く目。
裂けた口から覗く牙にも似た歯と、赤みがかった肌。
そして、何よりも、額から伸びる二本の角。
それは、能面の般若にそっくりな……というよりも、般若そのものだった。
そんなものが、巫女さんのパンツの真ん中にデカデカと描かれていた。
描かれていた?
自分の言葉に違和感がある。本当に絵なんだろうか?
なんだか立体的に見えるほど、リアルな般若がそこにいる。
そして、ボクは気づいていた。
坂の上にある神社の境内に一人佇んで、袴をたくし上げて、何故か般若が描かれているパンツを見せてしまっているのは、モモさん――潟城桃さんだってことに。
潟城桃。モモさん。
それはボクの憧れの人だ。
そんな彼女が、恥ずかしそうに目を閉じて、頬を赤く染めて、ほんの少し身体を震わせながら、だけど、袴をたくし上げて、その般若、いや、パンツを高い場所から晒している。
落ち着くんだ。
ボクは自分に念じた。
いくらなんでも、何が起きてるのか、ボクにはさっぱりわからない。
こういう時はまず深呼吸だ。
「うっ」
思いきり息を吸い込んだら、吐くのを忘れて過呼吸に陥りそうになった。
ダメだ。
やっぱり精神的な問題を、肉体的な手法で解決しようなんて、その考えが甘いんだ。
落ち着くんだ。そう、落ち着く。
そのためには、ちょっと状況を整理するしかない。
般若のパンツをはいた巫女のモモさんが、パンツを公開せざるをえない。その理由を考えるには、モモさんがいつもしていたことが、きっとヒントになる。
かわいい顔を羞恥に染めたモモさんを見て、ボクはいつものモモさんを思い出す。
潟城桃さん。
ボクと彼女は高校で同じクラスだ。
黒い髪はくせひとつなくまっすぐで、腰に届くほどに長い。
どこか儚げで清楚な印象を受ける彼女だけど、小さなことでもよく笑う明るさも併せ持っている。
つまりは、一言で言うと、かわいい。
人付き合いもよくて、よく喋って、みんなの真ん中にいる。
勉強はできるし、体育の成績までいい。
欠点なんて見当たらないのに、それを誇ることもない、そんな女の子だ。
彼女の声が聞こえれば、ボクは自然に姿を目で追ってしまう。
そんな彼女は、誰にでも話しかける気さくさも持っていた。それはもう、男女問わず、分け隔てない。
ある日、ボクは授業でさっぱりわからないところがあって、授業が終わったあとも教科書を眺めていた。
別に勉強熱心なわけじゃないけど、どこがわからないのかわからないという、変なツボに入ってしまったというか……ちょっとムキになってた気もする。
ともかく、考えてみるものの、目の前にある数式が返事をくれるわけもない。
しかたないので、面倒くさがられそうだけど、放課後にでも、先生に聞きにいってみようか。
そんなことを思って、教科書を閉じようとしていた。
「箸野くん」
かけられた声を他人と間違えるはずはなかった。
「潟城さん?」
間違えるわけはなかったけど、言葉に疑問符がついてしまう。
教科書と睨み合っていたボクのすぐ傍に、潟城桃さんがいた。
「どうしたの? 大丈夫」
不安げに眉を下げて、潟城さんが身を屈める。
長い黒髪がボクの近くで揺れると、なんだかよくわからないほど甘い香りがした。
多分、シャンプーとか、そういうのだ。
ボクは思わず身を強張らせる。
「い、いや。なんでもないよ。ただ……」
ボクは苦笑する。
潟城さんにこんなことを言うのは恥かしい。
「ちょっと、さっきの問題がわからなくて」
「えっと……。これ、難しいよね。わたしも考え込んじゃった」
潟城さんも苦笑いする。
そのまま彼女は、ボクに顔を近づける。
潟城さんの顔がすぐ目の前にある。
ボクはさらに緊張する。
ゴクリと唾を飲む込もうとしたけど、舌は乾いてしまっていた。
だけど、潟城さん本人はそんなこと気にした様子もない。
「あのね。ここを、Xに代入する形で考えればいいと思うよ。そしたら、他もわかってこない」
「え、えっと……」
潟城さんに見惚れていたことに気づかれないように、一生懸命、脳を回転させる。
言われたとおりにすると、それだけで他の式をどう動かせばいいのかがわかってくる。
「そっか! なるほど。ありがとう。潟城さん」
「どういたしまして。わたしも授業中、ウンウン言ってたから、つい口を出しちゃった。よけいなお世話でゴメンね」
潟城さんは、申し訳なさそうに手を合わせると、身を離した。
それだけのことがやけに寂しい。
手を振って去って行く潟城さんの背中から、ボクは目を離すことができなかった。
他にも、こんなことがあった。
「いや、ほんとにさ。あの映画、おもしろかったけど、ゼウスの奴はどうにかした方がいいよね」
「もとを辿れば、ゼウスが悪いもんな。アレスが不憫でならんぜ。なんでゼウスの奴、殴るの!?」
「だよね。でも、そこがおもしろいけど。ゼウス、自分には優し過ぎるとか」
と、ボクたちは休み時間、昨日、テレビで観た映画の話をしていた。
ギリシア神話をモチーフにしつつも、大胆解釈したアクション映画だ。多分。
名作というわけじゃなくて、おもしろいけど、本当にそれでいいの!? まあ、いいけど!
という、なんとも言えない感想を抱く映画だった。まあ、いいけど。
「ゼウスがさ。ちゃんと手を打っておけば、あんなことにならなかったよね。他の神々もすごく巻き添えもらってるし」
と、話してると、ボクたちの後ろで「プッ」と、誰かが噴き出すのが聞こえた。
「それ、昨日の映画のお話?」
不意に声をかけられて、ボクは驚いた。
さっき噴き出したのは、潟城さんだったんだ。
「潟城さん、昨日のアレ観たんだ?」
ボクだけでなく、友達も驚いていた。
思い返せば拷問シーン多過ぎるとか、残酷なシーンもある映画だったから、清楚な印象の潟城さんが観ていたなんて、ちょっと意外過ぎた。
「うん。観たよ。わたし、映画観るの好きなんだ。色々観るんだよ」
潟城さんはニコニコしている。
本当に映画が好きなんだと、ボクは思った。
「ゼウス、かっこよかったよね。ちょっとエキゾチックなのがステキだった」
「うん。珍しいキャラクターだと思った。でも、かっこよかったら、ポカが許されるかって言うと、許されないと、ボクは思うけど」
「そうだよね。でも、わたし、そういうところ含めて、昨日の映画、大好きだなー」
潟城さんは制服の胸元を抱くようにして、本当に嬉しそうに言った。
そして、彼女は思い出したように、ポンと手を叩く。
「昨日の映画観たなら、ギリシア神話繋がりで、あれも観てない? 最近、続編もやってた方」
「ああ! 見た見た! 昔の映画のリメイクが一作目のやつな」
思わず友達が喰いついた。
「あっちのゼウスも困った人だよね」
「ゼウスは神話の段階で困った人だからなー」
そんな感じで、ボクたちは、映画の話なのか、ギリシア神話の話、ゼウスほんとろくでもないという話なのかもわからない感じで、そのまま盛り上がってしまった。
潟城さんの意外なところを見ることができて、ボクは舞い上がって、何か色々言った気がするけど、あまり覚えてない。
変なこと言ってなかったかな……。
ゼウス、孕ませ過ぎ! とか、口走ってた気はするけど、教室で言うには……。
いや、この話はこれ以上思い出すのはよそう。
ともかく、そんなことがあった次の週、先月の話だけど、ボクは二日ほど高校を休んでしまった。
何か事故に巻き込まれたりしたわけじゃなくて、単純に、初夏だってことで油断して、窓全開で、お腹出して寝てたら、寝冷えしたというだけの話だ。
身体がダルかったのに、気のせいだと思って、夜更かしまでしたので、完全にこじらせた。
そんなわけで、しかたなく学校を休んで寝込んでいると、お見舞いに来てくれた人がいた。
気の利く友達がいたんだなーと思いながら、ドアをノックする音に、ベッドから身を起こして「どうぞ、入って」と言う。
「お邪魔します」
聞こえてきたのは、予想外に女の子の声だった。
母さんの声でも、姉さんの声でもない。
え? 誰? 誰が来たの?
混乱してるうちに、制服姿の女の子が部屋に入って来た。
ボクと同じ高校の制服、セーラー服を着た黒髪の女の子だ。
「ゴメンね。いきなり来ちゃって。迷惑かもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね」
形のいい眉を申し訳なさそうに下げて、目を細めて微笑んでいるのは、ボクと同じクラスの女の子、潟城桃さんだった。
実際のところ、声を聞いた時点で、潟城さんだとは思ったけど、潟城さんがお見舞いに来てくれるなんてファンタジー過ぎるので、ありえないと思ってた。
でも、目の前には、確かに潟城さんがいる。
「え……? 潟城さん。なんで?」
「えっと……。わたしね。箸野くんと、家が近いの。だから、学校のプリント、色々あるから、まとめて持ってきたの」
そう言って、潟城さんは、クリアファイルに挟んだプリントをボクに差し出した。
「わ、わざわざありがとう」
応えながら、ボクは自分の部屋が散らかったままだということに気づく。
うわっ!? どうしよう!? ああいう本とか、出したままじゃなかったっけ!?
チラチラと部屋の中を見回す。
幸い、あの手の本とかは、母さんが入ってくることを考えて、熱で苦しみながらも、秘密の隠し場所に放り込んでおいたので、事なきをえた。昨日のボクを心より褒める。
でも、散らかってることは散らかってるので、恥ずかしい。
「ゴメン。すぐ、片づけるよ。こんな部屋で、ゴメン」
言いながら、ベッドを這い出す。
「え? い、いいよ!? 風邪ひいてるんだから」
潟城さんは慌てて首を振る。
「それに、散らかってないと思うよ。わたし、男の子の部屋入ったことって今までないから、わからないけど、多分、わたしの部屋の方がものがいっぱいで……。あ、でも、片づけてるんだよ? 片づけてもきれいになってくれないだけで、えっと……」
潟城さんは恥かしそうにうつむいてしまった。
「あ、そ、そうなんだ」
ボクはパジャマ姿のまま立ち尽くす。
ボクの部屋に女の子がいる。
しかも、それは潟城さんだ。
その事実に、なんか熱が上がってきそうだった。
頭が熱いのは、風邪のせいなのか、緊張のせいなのかわからない。
こんなパジャマ姿なんて、ボクの方が恥ずかしい。
汗臭くないかな。それに、お昼から歯を磨いてない。
どうする? いや、なんかいやらしい意味じゃなくて、普通に喋って、口が匂ったりしたら嫌だし。
「そうだ。箸野くん」
「は、はい!」
ボクは思わず背筋を伸ばした。
そうしてるうちに、潟城さんは鞄の中をゴソゴソと漁って、何かを取り出した。
「あのね、これ」
そう言って、潟城さんは、ルーズリーフを数枚差し出す。
そこには細かく文字が描き込まれている。
ところどころ、蛍光ペンで強調された部分が鮮やかだ。
「箸野くんが休んでたところの授業。黒板の書き取りをちょっとだけアレンジしてるんだけど……」
「え? それ、ボクのために?」
「う、うん。余計なことかもしれないけど、でも、役に立てばいいなーって」
「ありがたいよ。とても、嬉しい」
潟城さんの書き取りは丁寧に、見る人のことを意識して書いてくれたことが、ひと目でわかる内容だった。
パッと見ただけでも、授業の流れがわかる気がする。
でも、潟城さんはなんで、こんな手間のかかることを……。
もしかして、潟城さんはボクのことを!?
一瞬、そんなことを考えた。だって、お見舞いにも来てくれるんだ。
い、いや、それはいくらなんでも勘違いで、ほら、潟城さんってかわいいし、気が利く人なのはいつものことだし、いわゆるクラスのマドンナ的な……! それに、家が近いって言ってたし、いや、それ自体がボクに対する好意の表れで……
やばい! 告白される!
ボクは二つ返事でOKしちゃう!
「じゃあ、箸野くん。長居したら身体に障ると思うから、もう帰るね」
そう言うと、潟城さんはペコリと頭を下げた。
ボクは我に返る。
そうですね。
「あ、う、うん。ほんとうにありがとう。潟城さん」
「ううん。困った時は助け合いだよ。あ、そうだ。箸野くん」
言いつつ、潟城さんはなんだか言葉に詰まった。
その頬がほんの少しだけ赤い気がした。
「なに? 潟城さん」
「え、えっと。あのね。嫌じゃなかったらでいいんだけど、名前で呼んでもらっていい……かな?」
「え、ええっ!?」
「お、大げさな意味はないんだよ!? でも、ほら、同じクラスになって、ずいぶん経つから、もっとフランクな感じがいいかなって、そ、そう思っただけで!」
「そ、そっか! そうだよね!」
うつむいてしまった潟城さんが、こちらを上目使いにチラリと見る。
「あ……。い、嫌だったらいいんだよ。無理しないで。馴れ馴れしいのとか、嫌いなら、わたし……」
「い、嫌じゃないよ。潟城さ……いや、桃」
「モモッ!?」
「ち、違う! モモさん! モモさんとか、どうかな!」
呼び捨てとか、危うかった。
さすがにそれはない。
ちゃん付けとかも頭をよぎったけど、それもあまりに馴れ馴れしい。
「う、うん。いいんじゃないかな。あ、ありがとう。わがまま言ってゴメンね」
潟城桃――モモさんは照れた笑みを浮かべていた。
ボクもほっぺたが熱かったのは、どう考えても風邪のせいじゃない。
というか、風邪のこととかもう忘れてた。
「それじゃ、帰るね。箸野くん。また学校で。今日はゆっくり休んでね」
「うん。明日には行けるといいな」
そのまま、モモさんが部屋を出て行くのを、ボクは見送ろうとして、思わず口を開いた。
「あ、そうだ。モモさん」
「ん? なぁに?」
「ボクのことも、名前で呼んでよ。箸野草也。ソウヤって」
「あ……。そうだね。うん。名前で呼んじゃうよ。ソウヤくん」
そう言って、モモさんは目を細めた。
「ちょっと照れちゃうね」
モモさんが小さく舌を出す。
ただ、呼び方が変わっただけ。
でも、ボクはモモさんとの仲が深まったみたいで、とても嬉しかった。
モモさんはボクと親しくしてくれる。
誰とでも仲がよくて、いつでも楽しそうで、何よりもかわいい。
そんなモモさんが、ボクは好きだった。
同じ学年だけど、憧れていた。
清楚で明るい黒髪の同級生。
それが潟城桃さんだ。
◆ ◆ ◆
そんなモモさんが、何故か巫女装束を着て、しかも、袴を大きくたくし上げて、そして、そのパンツは般若だった。
さらされた般若が夜の闇の中に赤く浮かび上がっている。
ボク――箸野草也が、路地裏から、坂の上にある神社の境内を見上げると、夜闇の中、街灯りにかすかに浮かび上がる木々の下に、巫女さんがいた。
白い着物に、赤い袴のコントラストが鮮烈に目に飛び込んで来る。
巫女さんは袴の裾を握っていた。
彼女はそのまま、袴をたくし上げ始める。
白衣と一緒に袴がまくり上げられるにつれて、白くて細い脚がどんどん露わになっていく。
ゆるやかな曲線を描く腿のあたりまで、袴が上がる。
両の腿の付け根に白い色彩が見えた。見えてしまった。
それはもちろん、袴と一緒にめくれた白衣の白色とは違う。
「パ、パンツ……いや、ショーツ? つまり、パンツ」
ボクは口走った。
袴をたくし上げた巫女さんのパンツが目に焼きつく。
その色は白衣と同じ、だけど、煌くような光沢を持つ白色。
汚れひとつないパンツの、その清らかさにボクの胸は高鳴る。
暗闇の中、街灯の光がそのパンツをくっきりと映し出す。
だけど、そんなパンツの真ん中に般若がいた。
眉間に刻まれた皺と、ギラギラと輝く目。
裂けた口から覗く牙にも似た歯と、赤みがかった肌。
そして、何よりも、額から伸びる二本の角。
それは、能面の般若にそっくりな……というよりも、般若そのものだった。
そんなものが、巫女さんのパンツの真ん中にデカデカと描かれていた。
描かれていた?
自分の言葉に違和感がある。本当に絵なんだろうか?
なんだか立体的に見えるほど、リアルな般若がそこにいる。
そして、ボクは気づいていた。
坂の上にある神社の境内に一人佇んで、袴をたくし上げて、何故か般若が描かれているパンツを見せてしまっているのは、モモさん――潟城桃さんだってことに。
潟城桃。モモさん。
それはボクの憧れの人だ。
そんな彼女が、恥ずかしそうに目を閉じて、頬を赤く染めて、ほんの少し身体を震わせながら、だけど、袴をたくし上げて、その般若、いや、パンツを高い場所から晒している。
落ち着くんだ。
ボクは自分に念じた。
いくらなんでも、何が起きてるのか、ボクにはさっぱりわからない。
こういう時はまず深呼吸だ。
「うっ」
思いきり息を吸い込んだら、吐くのを忘れて過呼吸に陥りそうになった。
ダメだ。
やっぱり精神的な問題を、肉体的な手法で解決しようなんて、その考えが甘いんだ。
落ち着くんだ。そう、落ち着く。
そのためには、ちょっと状況を整理するしかない。
般若のパンツをはいた巫女のモモさんが、パンツを公開せざるをえない。その理由を考えるには、モモさんがいつもしていたことが、きっとヒントになる。
かわいい顔を羞恥に染めたモモさんを見て、ボクはいつものモモさんを思い出す。
潟城桃さん。
ボクと彼女は高校で同じクラスだ。
黒い髪はくせひとつなくまっすぐで、腰に届くほどに長い。
どこか儚げで清楚な印象を受ける彼女だけど、小さなことでもよく笑う明るさも併せ持っている。
つまりは、一言で言うと、かわいい。
人付き合いもよくて、よく喋って、みんなの真ん中にいる。
勉強はできるし、体育の成績までいい。
欠点なんて見当たらないのに、それを誇ることもない、そんな女の子だ。
彼女の声が聞こえれば、ボクは自然に姿を目で追ってしまう。
そんな彼女は、誰にでも話しかける気さくさも持っていた。それはもう、男女問わず、分け隔てない。
ある日、ボクは授業でさっぱりわからないところがあって、授業が終わったあとも教科書を眺めていた。
別に勉強熱心なわけじゃないけど、どこがわからないのかわからないという、変なツボに入ってしまったというか……ちょっとムキになってた気もする。
ともかく、考えてみるものの、目の前にある数式が返事をくれるわけもない。
しかたないので、面倒くさがられそうだけど、放課後にでも、先生に聞きにいってみようか。
そんなことを思って、教科書を閉じようとしていた。
「箸野くん」
かけられた声を他人と間違えるはずはなかった。
「潟城さん?」
間違えるわけはなかったけど、言葉に疑問符がついてしまう。
教科書と睨み合っていたボクのすぐ傍に、潟城桃さんがいた。
「どうしたの? 大丈夫」
不安げに眉を下げて、潟城さんが身を屈める。
長い黒髪がボクの近くで揺れると、なんだかよくわからないほど甘い香りがした。
多分、シャンプーとか、そういうのだ。
ボクは思わず身を強張らせる。
「い、いや。なんでもないよ。ただ……」
ボクは苦笑する。
潟城さんにこんなことを言うのは恥かしい。
「ちょっと、さっきの問題がわからなくて」
「えっと……。これ、難しいよね。わたしも考え込んじゃった」
潟城さんも苦笑いする。
そのまま彼女は、ボクに顔を近づける。
潟城さんの顔がすぐ目の前にある。
ボクはさらに緊張する。
ゴクリと唾を飲む込もうとしたけど、舌は乾いてしまっていた。
だけど、潟城さん本人はそんなこと気にした様子もない。
「あのね。ここを、Xに代入する形で考えればいいと思うよ。そしたら、他もわかってこない」
「え、えっと……」
潟城さんに見惚れていたことに気づかれないように、一生懸命、脳を回転させる。
言われたとおりにすると、それだけで他の式をどう動かせばいいのかがわかってくる。
「そっか! なるほど。ありがとう。潟城さん」
「どういたしまして。わたしも授業中、ウンウン言ってたから、つい口を出しちゃった。よけいなお世話でゴメンね」
潟城さんは、申し訳なさそうに手を合わせると、身を離した。
それだけのことがやけに寂しい。
手を振って去って行く潟城さんの背中から、ボクは目を離すことができなかった。
他にも、こんなことがあった。
「いや、ほんとにさ。あの映画、おもしろかったけど、ゼウスの奴はどうにかした方がいいよね」
「もとを辿れば、ゼウスが悪いもんな。アレスが不憫でならんぜ。なんでゼウスの奴、殴るの!?」
「だよね。でも、そこがおもしろいけど。ゼウス、自分には優し過ぎるとか」
と、ボクたちは休み時間、昨日、テレビで観た映画の話をしていた。
ギリシア神話をモチーフにしつつも、大胆解釈したアクション映画だ。多分。
名作というわけじゃなくて、おもしろいけど、本当にそれでいいの!? まあ、いいけど!
という、なんとも言えない感想を抱く映画だった。まあ、いいけど。
「ゼウスがさ。ちゃんと手を打っておけば、あんなことにならなかったよね。他の神々もすごく巻き添えもらってるし」
と、話してると、ボクたちの後ろで「プッ」と、誰かが噴き出すのが聞こえた。
「それ、昨日の映画のお話?」
不意に声をかけられて、ボクは驚いた。
さっき噴き出したのは、潟城さんだったんだ。
「潟城さん、昨日のアレ観たんだ?」
ボクだけでなく、友達も驚いていた。
思い返せば拷問シーン多過ぎるとか、残酷なシーンもある映画だったから、清楚な印象の潟城さんが観ていたなんて、ちょっと意外過ぎた。
「うん。観たよ。わたし、映画観るの好きなんだ。色々観るんだよ」
潟城さんはニコニコしている。
本当に映画が好きなんだと、ボクは思った。
「ゼウス、かっこよかったよね。ちょっとエキゾチックなのがステキだった」
「うん。珍しいキャラクターだと思った。でも、かっこよかったら、ポカが許されるかって言うと、許されないと、ボクは思うけど」
「そうだよね。でも、わたし、そういうところ含めて、昨日の映画、大好きだなー」
潟城さんは制服の胸元を抱くようにして、本当に嬉しそうに言った。
そして、彼女は思い出したように、ポンと手を叩く。
「昨日の映画観たなら、ギリシア神話繋がりで、あれも観てない? 最近、続編もやってた方」
「ああ! 見た見た! 昔の映画のリメイクが一作目のやつな」
思わず友達が喰いついた。
「あっちのゼウスも困った人だよね」
「ゼウスは神話の段階で困った人だからなー」
そんな感じで、ボクたちは、映画の話なのか、ギリシア神話の話、ゼウスほんとろくでもないという話なのかもわからない感じで、そのまま盛り上がってしまった。
潟城さんの意外なところを見ることができて、ボクは舞い上がって、何か色々言った気がするけど、あまり覚えてない。
変なこと言ってなかったかな……。
ゼウス、孕ませ過ぎ! とか、口走ってた気はするけど、教室で言うには……。
いや、この話はこれ以上思い出すのはよそう。
ともかく、そんなことがあった次の週、先月の話だけど、ボクは二日ほど高校を休んでしまった。
何か事故に巻き込まれたりしたわけじゃなくて、単純に、初夏だってことで油断して、窓全開で、お腹出して寝てたら、寝冷えしたというだけの話だ。
身体がダルかったのに、気のせいだと思って、夜更かしまでしたので、完全にこじらせた。
そんなわけで、しかたなく学校を休んで寝込んでいると、お見舞いに来てくれた人がいた。
気の利く友達がいたんだなーと思いながら、ドアをノックする音に、ベッドから身を起こして「どうぞ、入って」と言う。
「お邪魔します」
聞こえてきたのは、予想外に女の子の声だった。
母さんの声でも、姉さんの声でもない。
え? 誰? 誰が来たの?
混乱してるうちに、制服姿の女の子が部屋に入って来た。
ボクと同じ高校の制服、セーラー服を着た黒髪の女の子だ。
「ゴメンね。いきなり来ちゃって。迷惑かもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね」
形のいい眉を申し訳なさそうに下げて、目を細めて微笑んでいるのは、ボクと同じクラスの女の子、潟城桃さんだった。
実際のところ、声を聞いた時点で、潟城さんだとは思ったけど、潟城さんがお見舞いに来てくれるなんてファンタジー過ぎるので、ありえないと思ってた。
でも、目の前には、確かに潟城さんがいる。
「え……? 潟城さん。なんで?」
「えっと……。わたしね。箸野くんと、家が近いの。だから、学校のプリント、色々あるから、まとめて持ってきたの」
そう言って、潟城さんは、クリアファイルに挟んだプリントをボクに差し出した。
「わ、わざわざありがとう」
応えながら、ボクは自分の部屋が散らかったままだということに気づく。
うわっ!? どうしよう!? ああいう本とか、出したままじゃなかったっけ!?
チラチラと部屋の中を見回す。
幸い、あの手の本とかは、母さんが入ってくることを考えて、熱で苦しみながらも、秘密の隠し場所に放り込んでおいたので、事なきをえた。昨日のボクを心より褒める。
でも、散らかってることは散らかってるので、恥ずかしい。
「ゴメン。すぐ、片づけるよ。こんな部屋で、ゴメン」
言いながら、ベッドを這い出す。
「え? い、いいよ!? 風邪ひいてるんだから」
潟城さんは慌てて首を振る。
「それに、散らかってないと思うよ。わたし、男の子の部屋入ったことって今までないから、わからないけど、多分、わたしの部屋の方がものがいっぱいで……。あ、でも、片づけてるんだよ? 片づけてもきれいになってくれないだけで、えっと……」
潟城さんは恥かしそうにうつむいてしまった。
「あ、そ、そうなんだ」
ボクはパジャマ姿のまま立ち尽くす。
ボクの部屋に女の子がいる。
しかも、それは潟城さんだ。
その事実に、なんか熱が上がってきそうだった。
頭が熱いのは、風邪のせいなのか、緊張のせいなのかわからない。
こんなパジャマ姿なんて、ボクの方が恥ずかしい。
汗臭くないかな。それに、お昼から歯を磨いてない。
どうする? いや、なんかいやらしい意味じゃなくて、普通に喋って、口が匂ったりしたら嫌だし。
「そうだ。箸野くん」
「は、はい!」
ボクは思わず背筋を伸ばした。
そうしてるうちに、潟城さんは鞄の中をゴソゴソと漁って、何かを取り出した。
「あのね、これ」
そう言って、潟城さんは、ルーズリーフを数枚差し出す。
そこには細かく文字が描き込まれている。
ところどころ、蛍光ペンで強調された部分が鮮やかだ。
「箸野くんが休んでたところの授業。黒板の書き取りをちょっとだけアレンジしてるんだけど……」
「え? それ、ボクのために?」
「う、うん。余計なことかもしれないけど、でも、役に立てばいいなーって」
「ありがたいよ。とても、嬉しい」
潟城さんの書き取りは丁寧に、見る人のことを意識して書いてくれたことが、ひと目でわかる内容だった。
パッと見ただけでも、授業の流れがわかる気がする。
でも、潟城さんはなんで、こんな手間のかかることを……。
もしかして、潟城さんはボクのことを!?
一瞬、そんなことを考えた。だって、お見舞いにも来てくれるんだ。
い、いや、それはいくらなんでも勘違いで、ほら、潟城さんってかわいいし、気が利く人なのはいつものことだし、いわゆるクラスのマドンナ的な……! それに、家が近いって言ってたし、いや、それ自体がボクに対する好意の表れで……
やばい! 告白される!
ボクは二つ返事でOKしちゃう!
「じゃあ、箸野くん。長居したら身体に障ると思うから、もう帰るね」
そう言うと、潟城さんはペコリと頭を下げた。
ボクは我に返る。
そうですね。
「あ、う、うん。ほんとうにありがとう。潟城さん」
「ううん。困った時は助け合いだよ。あ、そうだ。箸野くん」
言いつつ、潟城さんはなんだか言葉に詰まった。
その頬がほんの少しだけ赤い気がした。
「なに? 潟城さん」
「え、えっと。あのね。嫌じゃなかったらでいいんだけど、名前で呼んでもらっていい……かな?」
「え、ええっ!?」
「お、大げさな意味はないんだよ!? でも、ほら、同じクラスになって、ずいぶん経つから、もっとフランクな感じがいいかなって、そ、そう思っただけで!」
「そ、そっか! そうだよね!」
うつむいてしまった潟城さんが、こちらを上目使いにチラリと見る。
「あ……。い、嫌だったらいいんだよ。無理しないで。馴れ馴れしいのとか、嫌いなら、わたし……」
「い、嫌じゃないよ。潟城さ……いや、桃」
「モモッ!?」
「ち、違う! モモさん! モモさんとか、どうかな!」
呼び捨てとか、危うかった。
さすがにそれはない。
ちゃん付けとかも頭をよぎったけど、それもあまりに馴れ馴れしい。
「う、うん。いいんじゃないかな。あ、ありがとう。わがまま言ってゴメンね」
潟城桃――モモさんは照れた笑みを浮かべていた。
ボクもほっぺたが熱かったのは、どう考えても風邪のせいじゃない。
というか、風邪のこととかもう忘れてた。
「それじゃ、帰るね。箸野くん。また学校で。今日はゆっくり休んでね」
「うん。明日には行けるといいな」
そのまま、モモさんが部屋を出て行くのを、ボクは見送ろうとして、思わず口を開いた。
「あ、そうだ。モモさん」
「ん? なぁに?」
「ボクのことも、名前で呼んでよ。箸野草也。ソウヤって」
「あ……。そうだね。うん。名前で呼んじゃうよ。ソウヤくん」
そう言って、モモさんは目を細めた。
「ちょっと照れちゃうね」
モモさんが小さく舌を出す。
ただ、呼び方が変わっただけ。
でも、ボクはモモさんとの仲が深まったみたいで、とても嬉しかった。
モモさんはボクと親しくしてくれる。
誰とでも仲がよくて、いつでも楽しそうで、何よりもかわいい。
そんなモモさんが、ボクは好きだった。
同じ学年だけど、憧れていた。
清楚で明るい黒髪の同級生。
それが潟城桃さんだ。
◆ ◆ ◆
そんなモモさんが、何故か巫女装束を着て、しかも、袴を大きくたくし上げて、そして、そのパンツは般若だった。
さらされた般若が夜の闇の中に赤く浮かび上がっている。
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