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今回はちょっと原稿、本当に危ないんじゃないの!?
という具合でしたが、どうにか逆転勝利かまして完成しました。
誰に勝ったの? 弱い自分にさ。
なので、関西コミティア37に参加します!
スペース情報は以下のとおり。
10月17日(日)
K-26 玉造屋バキューン
新刊は短編小説(コピー誌)
『ラブコメ! のふりをしたろくでもない話』
タイトルのとおりのお話です。
けっこう悪意と怨念が詰まっていますが、読み口は軽いんじゃないでしょうか?
以下は予告編になります。
冒頭部分を掲載していますので、気に入っていただけた方はよろしくお願いします。
■あらすじ
クリスマスも近いある日。
相沢秋成の前に白いものが舞い降りた。
雪でも天使でもなくWiiのバランスボード(家庭用体重計なみの代物)
本気で死にかけた秋成は、それがきっかけとなり、
それをぶん投げた少女、藪木まどかと親しくなる。
徐々に縮まる二人の距離だが……。
クリスマスも近い……と言っても、まだ一か月ほど日を残したある日の夜。
肌を刺すような寒さの中、手袋をした手を擦り合わせて、夜道を一人猫背で歩く僕の前に白いものが舞い降りた。
それは天使でも雪でもない。
まな板ほどの白く分厚い板が、僕の前髪と、手にしていたコンビニの袋をかすめてアスファルトの地面に激突、明らかに金属のものである大きな音を立てて転がる。
唖然としつつもよくよく見れば、それはWiiのバランスボードだった。
ゲームの運動などに使う、あれだ。
突然のことに声もなく、一歩先へ進んでいたら、僕の頭はどうなっていたんだろうかと今更に思うと、ただただ腰から力が抜けた。
冷たいアスファルトの上にペタンと尻餅を突き、上下さかさまで転がっているバランスボードをマジマジと見詰める。恐ろしいことに、けっこう上の方から落ちてきたはずのバランスボードは原型を保つどころか、壊れているようにすら見えなかった。
「ニンテンドーすげえー」
場違いなことを呟きつつも、ならば、これはどこから落ちてきたんだろうかと、顔を上げる。
冬の夜空にはこの街中でも、はっきりとオリオン座が輝いている。
真上には何も見えず、少し視線を下したところで、僕は彼女と目が合った。
近くの家の二階の窓から一人の女の子が顔を出している。
彼女は口をパクパクとして、俺の方を指差すと、姿を消した。
ほとんど時も置かず、玄関からその子が走り出して来る。
「だ、だ、大丈夫ですか!? け、怪我はありませんか!?」
「あ、えっと。はい」
おさげに結った髪を揺らし、大慌てで走ってきた彼女は、案外かわいい。
冬にしては薄着の長袖シャツを着て、ジャージのズボンをはいている。頬が赤いのは走って来たからなのか、今までそこのバランスボードを使って運動していたからなのか、それとも、僕との出会いのせいか?
いや、最後だけはないな。
「よかった……。よかった! この歳で人を殺めてしまうところでした……。生きていてくれてよかったあ」
「……え、えっと。それはつまり、これ?」
空から舞い降りたバランスボードを指差す。
「あ……う。は、はい」
彼女は気まずそうに目を逸らした。
「これ、Wiiのバランスボードだよね?」
「はい。ところによってはウィーボくんと呼ばれる存在です」
「ウィーボくん、空を飛ばないよね?」
「私の知る限り、飛ばないです」
彼女が顔を出していた窓をもう一度見てみる。
この場所までけっこう距離がある。
「投げたの?」
「な、投げました」
「なんで?」
「特に食べ過ぎたわけじゃないのに、昨日よりも体重が増えていて、しかも、バランス測定が何故かまったくうまくいかなくて……つい、カッとなって」
「いや、投げるなよ!?」
「ゴ、ゴメンなさい! ゴメンなさい! このとおりです!」
彼女は土下座した。
「いやいやいや! 土下座しろとまでは言ってない!」
「私が全面的に悪かったのはわかっています! 時々、こうなるんです! こう、ついカッとなると見境なく攻撃的になって、失ってから後悔する。そんな人生を十六年送ってきたんです!」
「ウィーボどころか、俺の人生失うところだったじゃないか! あと、君の人生も! さりげに同い年なのに!」
「今は反省していますー!」
必死で頭を下げると、彼女は僕が取り落したビニール袋に目をやった。
よくよく考えれば、僕はコンビニまで出かけて、漫画とコーラと、ついでに牛乳を買ってきたところだった。牛乳は親に頼まれたものだ。
袋から白いものがドクドクと流れ出している。
取り落した時に、牛乳のパックが破れたんだろう。
「白いものが! 白いものが!? すぐ買ってきます! 弁償します!」
「いや、別に……」
しかし、彼女は返事を待たずに駆け出した。
コンビニ目掛けて走ろうとして、財布でも忘れたのに気づいたのか、一度、家に走り込み、上着を羽織って、また駆けて行った。
なんだか止める間もなかったので、僕は立ち上がって、尻の埃を払うと、その場に佇む。
そのまま放置して帰るわけにもいかないので、とりあえず、バランスボードを道路の端に寄せ、コンビニの袋を拾った。
コーラはともかく、漫画も牛乳まみれになっているのだけど、彼女がそれに気づいているとは思えない。
そんなことをしているうちに、彼女が駆け戻って来た。
「か、買ってきました。牛乳、買ってきました」
白い息を吐く彼女の額には汗が浮いている。
「そんな全力で走らなくても……。まあ、ともかく、ありがとう」
「いえいえいえ! 私が粗相してしまったんですから! 本当にすいませんでした!」
新しい牛乳を手渡して、もう一度、頭を下げる彼女に、「いいからいいから」と返す。
「それじゃ、失礼します」
「あ。バランスボード忘れてるよ」
「あ! ありがとうございます! うわ! 壊れてない! ニンテンドーすごい!」
彼女はバランスボードを拾うと、真っ赤な顔で家に駆け戻って行った。
なんだか置いていかれたような僕は、首を捻る。
「……なんか、どこかで見た顔な気がするなあ」
家着なので、飾った様子はないけど、かわいい子だった。
同い年ぐらいだし、どこかで会っていたら、覚えていそうなものなのだけどと、思う。
「クリスマスも近いし、これが出会いに……。なるわけもないか」
もう一度、バランスボードが降ってくるならまだしも、そんなことはありえない。
「あったらあったで、僕が生きているのかどうかわからないな」
肩をすくめると、僕は家に帰ろうと歩き出した。
◆ ◆ ◆
「ま、漫画買ってまいりましたー! これだよね? 合ってるよね?」
寒い中を登校して、ホームルームまでの微妙な時間、居眠りでもしようか、それとも予習するふりでもしようかと迷っている僕の前に、いきなり漫画が突き出された。
『鉄球神エミリ雄③』。
ファンタジック能力アクションバトル漫画だが、やり過ぎて、よく中身がはみ出る。
昨日、僕はこれをコンビニで買ったけど、牛乳まみれになったそれは、なんか見た目も匂いも大変なことになっていて、結局、読むことなんてできなかった。
「合ってるよね? って……」
顔を上げれば、セーラー服の女子がいる。まっすぐな長い髪に制服がよく似合っている。
眼鏡をかけた顔は、どこか真面目そうに見えるけど、けっこうかわいい。
僕と同じクラスなんで、年齢は同じはずだけど、少しだけ年下に見える、そんな子だ。
「藪木さん?」
彼女の名前を呼ぶ。
話したことなんてほとんどないけど、クラスメイトだ。
「うん。それで……これ、合ってるよね?」
「合ってるって……。確かに昨日買ったけど……」
藪木さんが何を言っているのかわからなくて、差し出された漫画と、彼女の顔を交互に見比べる。
「……ん? あれ?」
そこで僕は気づいた。
「昨日のって、もしかして……藪木さんだったの!?」
「そう! そうなの! 私も、相沢くんだって、後で気づいたの!」
「いや! 藪木さん、昨日、眼鏡かけてなかったし、服装も違ったから。ゴメン。気がつかなかった」
髪型も服装も違えば、印象はずいぶん変わる。だけど、そう言われてみれば、昨日の子が藪木さんだってわからなくもない。
「うん。私、そんなに目が悪いわけじゃないから、家だと眼鏡外してることが多いの。運動する時に眼鏡してると、ずり落ちてきて、キー! ってなっちゃうし。でも、眼鏡外してたから、よく見えなくて、私も相沢くんのこと、気づかなかったみたい……。家に戻ってから、見たことあるなーって思って」
「あー。そうだったのかあ」
僕はしみじみと呟いた。
「……藪木さんがバランスボード、窓からぶん投げるほどに荒ぶる子だったなんて……」
「うう……。それに関しては、本当にゴメンなさい。ああいうのは時々なの。その……怒りの条件があるというか、なんというか」
「まあ、そういうものはあるのかもしれないけど」
とはいえ、あまりにも意外過ぎた。
僕は藪木さんとはほとんど話したことがなかった。
クラスでは目立つ方じゃないし、かと言って、彼女に友達がいないわけでもない。
僕にとってはあくまでクラスメイトの一人だ。
だから、なんとなく、外見を見て、おとなしい子なんだろうなーと思い込んでいた。
「できれば、その……。あまり人に言わないで。恥ずかしいから」
「その恥ずかしい行為で殺されかけたけど、言わないよ」
「本当にゴメンなさい……」
しゅんとなってうなだれる藪木さんの表情は悪くない。
いや、そう考えるのもどうかと思うけど、本気で死にかけたわけだし、このぐらいはいいんじゃないだろうか? と、誰に言うでもなく、心の中で言い訳する。
「そ、それでね! 買ってきたの。漫画。昨日、帰り際に、相沢くんがそれ袋の中に持ってるのに気づいたけど、言い出せなくて。どう考えても、その……牛乳まみれだったよね?」
「うん。屈強な主人公(♂)が白く染まっていたよ」
彼女の手から漫画を受け取りつつ言う。
しかし、ちょっと見ただけでよくこの漫画だってわかったものだなーと感心した。
「でも、別によかったのに」
「そういうわけにはいかないよ。私がやっちゃったことだから……」
「律儀だなあ。じゃあ、ありがたくいただいておくよ」
「うん。よかったあ」
胸の前で手を合わせてほっとしたように藪木さんが笑う。
僕は思わず目を逸らした。
いや、藪木さんが悪いわけじゃなくて、なんかすごく、笑顔がかわいかったからだ。
変な見方をしてしまいそうで、ちょっと困った。
「そうだ。相沢くん。昼休み、空いてる?」
「昼休み? お昼を食べる以外に用事なんてないよ。友達は女の子と食べに行くしなあ。あいつ滅びればいいのに」
「小寺くんだよね?」
「小寺のこと知ってるんだ。……いや、そりゃ知ってるか」
僕は苦笑する。
小寺は別のクラスだけど、ある意味で有名な奴だ。
「それじゃ、相沢くん。お昼、付き合ってもらえない? 殺しかけたお詫び……にするには、安上がり過ぎるんだけど、ランチぐらい奢るよ」
「いや、そこまでしてもらうわけには……」
「私の気が済まないの! お願いします!」
身を乗り出した藪木さんの顔が近づく。
なんだかいい匂いがした。シャンプーなのか、ボディソープなのか、部屋の匂いなのかわからないけど、いい匂いがした。
これはまずい。
ねだるような表情がすぐ目の前にある。
「わ、わかった。付き合うよ」
付き合うと言っても、変な意味じゃない。
また心の中で言い訳する。
「よかった! ありがとう!」
そう言って藪木さんは俺が見たこともない笑顔で笑った。
胸の奥で何かが弾む。