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ライトノベル作家、八薙玉造のblogです。 ここでは、主に商業活動、同人活動の宣伝を行っております。
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八薙玉造
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 ライトノベルをガリガリと書かせていただいている身の上です。

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 遅ればせながらではありますが、冬コミ受かりました!

 12月30日(日) 西館 さ-35a『玉造屋バキューン』

 になります。新刊も出ますので、お暇なら……って、年末だから、間違いなく忙しいですよね。余力あれば、是非是非、御立ち寄りください。

 というわけで、今回の新刊予告編も公開します。
 タイトルは『巫女のパンツはいつも黒!』です。
 胸を張って言いますが、伝記小説です(イイ顔で)


■あらすじ
「巫女のパンツは今日も黒!」
 『甘柿神社』の巫女、唯は毎日毎日、鏡の神、キョウにパンツを覗かれていた。
 彼女の周りに人間はいない。
 手鏡の神である、キョウ。
 甘柿神社の祀神、甘柿命。
 褌の神、アンダーソン。
 そんな彼らと、唯の日常を描くほのぼのしてるふりの伝奇セクハラストーリー!
 ポロリもあるよ?


■予告編
「いーやっほー! 今日もパンツ黒! 巫女のくせにパンツ黒ー!」
 巫女装束の少女がじりじりと下がる。
「巫女のパンツは今日も黒! 巫女のパンツは今日も黒! いやっほー! 今、まさに俺様が確かめてやるぜぇぇ!」
 その巫女が履く緋袴を掴み、捲り上げようとしているのは掌大の手鏡だった。正確に言えば、その手鏡の鏡面から伸びた手が彼女の裾を掴んでいる。しかも、手鏡は彼女の腰あたりまで浮かび上がっていた。スカートをめくるように捲り上げられた袴を抑えて、巫女は必死に抗う。
「唯ー! いつも黒だなー! しかも、俺には見える! わかる! レースのあしらわれた、言うなれば大人パンツ! そんなにちっちゃいのに……むしろ、年齢より小さく見えるのに! それでもなお、背伸びしてるのってかわいいぜー! うっひょう!」
 唯と呼ばれた巫女の頬が赤くなった。
 浮遊する鏡が言うとおり、彼女は幼く、まだ十を過ぎた程度にしか見えない。巫女装束から覗く腕も足も細く白い。肩辺りまで伸びた黒髪は左側だけがくくられ、それも彼女の年齢を幼く見せていた。
「大人パーンツー。黒い大人パーンツー。背伸びしてるー。唯ったら背伸びしてるー。ひゃっほう!」
 騒ぎ立てながら、袴を引っ張り続ける手鏡を、唯はおもむろに掴み、引き剥がす。思い切りまくれた袴の中が一瞬見えた。手鏡が言い立てたとおり、レースがあしらわれた黒い布が紛れもなくそこにある。
「見えた! 見えました! もう見えてたけど!」
 剥がした鏡を、唯は頭上に大きく振りかぶる。
「……お? あ、あれ? ゆ、唯……お嬢様。今、まさに何をしようとしていらっしゃいま」
 そして、無言のまま思い切り地面に叩きつけた。軽い音を立てて鏡が割れ砕け、さらに砕け散った鏡を草鞋の足で思い切り踏みしめる。
 鏡が喋らなくなったことを確認してから、唯は袴を揺らして踵を返した。
 彼女の前には玉砂利が敷き詰められた神社の境内が広がっている。その頭上には朝の太陽に照らされた赤く塗られた鳥居が佇んでいた。『甘柿神社』と書かれた札の上で髪の毛のようなものが動いたが、彼女は気にした様子もなく、鳥居の横を抜けて境内に歩み入る。
 その頭の上に背後から飛んできたものが飛び乗った。
 先程、彼女が完膚なきまでに踏み潰した手鏡だ。それが壊される前の形で唯の頭の上にある。
 鏡面に外の景色は映っていない。代わりに黒く塗り潰されたようなのっぺりとした人影が映り込んでいた。その背後には苛立たしい程にわざとらしい七色の後光らしきものが差している。人影の黒い両手が鏡から外に現れ、唯の頭を掴んでいた。
「酷いぜー! 酷過ぎるぜー、唯。普通、神様を足蹴にするか? というか、粉微塵だったぜ? パンツ見るのはいつものことじゃないかよー」
「キョウ、鬱陶しい」
 もう一度掴んで投げ飛ばそうとするが、今度は髪の毛をしっかりと掴んでいるのでうまく剥がない。唯は顔をしかめると、キョウと呼んだ手鏡を頭に乗せたままで歩く。
「おいおいー。そんな邪険にするなよー。わかってるって、背伸びしたい年頃だってのは。俺が毎日毎日パンツチェックするから業を煮やしたんだろ? えへへ、かわいいじゃないか」
 うんざりとしたように頭の上のものを半目で見上げるが、唯は何も言わない。
 そんな彼女の元にカラカラと妙に軽い足音が近づいてくる。
「おーんっ! 唯ー! レディ唯。リトル・レディ唯ー。今日も綺麗だねー。ボンソワールって何語?」
 軽薄を音にしたような声と共に、唯の眼前に人骨が踊り出てきた。足の先から頭の先まで肉ひとつない綺麗な白骨だ。
 唯は驚かない。白骨の襟元でその骨の色よりも白いマフラーが風もないのに真上になびいているが、それでも驚いた様子一つ見せず、ただ、鬱陶しいものを見るようにその片眉だけをぴくりと動かす。
「出やがったな、セクハラ骨野郎! アンダーソン! てめぇは帰れ。ぶっ殺すぞ!」
「ノー。ノー。それは君のことだろう。セクハラ古鏡、キョウくん。歳の差を見せつけて二度と蘇れないように腸食らい尽くすよ? ボンソワール」
「ていうか、ボンソワールって何だ、てめぇ!?」
 アンダーソンと呼ばれた骨とキョウが睨み合う。
「だいたいね。レディ唯があんな下賎な黒い下着を履いてるのは誰のせいだ? 君だ!」
 アンダーソンがキョウを指差す。
「あぁ。こんな可憐な美少女の下着には白い下着が似合うに決まっているじゃないか。白い下着……そう、穢れ一つない白雪のような下着が似合うに決まってるよね! ボンソワール?」
 アンダーソンが人差し指を立てた。
 白骨の頭蓋は先程から動いていない。全ての声は別の場所から聞こえていた。風もなく翻るマフラーが唯に近づいてくる。
「そう。そこで私の出番だ! この由緒正しい越中褌! 六尺褌より優しい装着感! それがこの私、越中褌アンダーソンのプライド!」
 マフラーのようなものが、その端を口のように開閉して叫ぶ。
「燃え尽きろー」
 キョウがどこから取り出したライターで火を点けた。
「ぎゃおらわぁぁぁっ!? ボン、ボンーッ!?」
 瞬く間に燃え上がったアンダーソンが白骨ごと転倒し、のた打ち回る。それを感情のない目で見下ろし、唯は気にすることなく、また歩き出した。
「えぇぇぇっ!? レディ、レディーっ! そこで放置なさるのですかー!」
 唯は答えもせずに境内を行く。
「ボンソワールって何?」
 ただ、一言唯が呟いた。
「さぁ。何かどっかで見たんだろ。あいつ適当だしな。この俺様と違って」
 頭の上の手鏡を見上げて、吐息しただけでそのまま歩き続ける。
 古びた本殿の脇に社務所がある。増築でもしたのか、明らかに新しく作られた部分が古い作りの建物に繋がっていた。本殿も社務所も掃除こそ行き届いてはいるが、古びて痛んでいるのは否めない。
 社務所の前に陶器が積み重ねられていた。食器や花瓶だけではなく蚊取りブタや湯たんぽすらも混じったそれは唯よりも高く積み上げられている。陶器の塊は音を立てながら動いていた。二本の腕らしきもの、二本の足らしきものと、頭のような部分をも備えた塊は人の形をしている。
「これはおはよう。唯殿。朝の鍛錬かね?」
 陶器と陶器が擦れ合う音を立てながら、声を出す。低く重い声が顔らしき部分から流れ出した。
「散歩」
 そっけなく答えた唯の前で陶器の塊は腰に提げた刀を抜いた。
「散歩か。心身を平静に保つにはよい行い」
 陶器は引き抜いた日本刀を青眼に構える。朝の光を浴びた刀身が鋭い銀光を放った。同時に刃がブルリと震える。
「おん、はうぅぅ!? ちょっとー、大将殿ー。強く握り過ぎでござるよー!?」
 日本刀から声がした。
「我慢せい。心頭滅却すれば火もまた涼しとはよく言うものだ。さあ、朝の素振り千回っ!」
「いやいや、滅却って。神は滅びないものでござるし……。あと、そこはー!?」
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
 大将と呼ばれた陶器が声を振り絞る。神速の踏み込みが砂利を弾き飛ばし、白刃が空気を裂く。
 そして、陶器の足が砕けた。
「ぎゃぁぁぁぁっ! せ、拙者の足がー!」
「いつものことじゃねぇかよ!」
 刀を取り落としてのた打ち回る大将を見下ろし、唯の頭の上でキョウが溜息を漏らす。
 転がった衝撃でさらに割れていく大将には見向きもせず、唯はその視線を境内の外へと向ける。
 甘柿神社は町を見下ろす高台に作られていた。
 唯の視線の先には、雑居ビルと民家が並んだ雑多な町並みがある。
 そのビルを跨いで黒い人影が青空に伸び上がるのが見えた。風のない空をボロ布がひらひらと舞っている。道路を靴だけの団体がぞろぞろと行進していた。道端にはバイクと車がたむろして、口らしきものをパクパクと広げて何かを話しこんでいる。妙な鳴き声に目をやれば猿の顔をした虎のような生き物が空を飛んでいた。晴れた空に一箇所だけ黒雲が見え、そこには雨が降っている。ただ一点の雨空の下には深い緑に淀んだ池と、そこから鎌首をもたげる蛇の頭が見えた。
 ただ、人間の姿だけがない。
 頭の上にキョウを乗せたまま、唯は社務所に入った。
 草鞋を脱ぎ、上がれば、事務所らしき部屋の奥には居間がある。
 ちゃぶ台の置かれた小さな部屋に人影があった。部屋の中だというのに、黒い外套を羽織った大柄な男だ。赤い顔の男は、外套から出した右手だけで新聞を広げている。
 その目が唯を見上げた。動いたのは片目だけだ。唯の顔の倍以上ある赤く大きな顔の左半分は乱暴に巻かれた包帯に覆い隠されている。
「帰ったか」
 それだけ言うと、男は再び新聞に目を落とす。唯も特に何も返さない。
「おー。甘柿様。何かおもしろいニュース載ってるか?」
 代わりとでも言うように、彼女の頭の上でキョウが尋ねる。
「出雲の大神が九州を制圧したな」
 甘柿と呼ばれた男が興味なさそうに答える。
「情報ならあっしが一番早いでやんすよー。これぞ、瓦版の神の全国情報網」
 新聞が喋って動いたので、甘柿は大きく広げて読みやすく正した。
「早けりゃいいもんじゃないよーだ。ボクの方が情報の幅が広いもんねー」
 甘柿の後ろで稼動音を鳴らしていたパソコンが声を上げる。
「もう、インターネットなんて更新されないでやんしょ。バッカでー。エラー出るページも多いでやんすしね」
「そんな不思議情報網とかアテにならないもん。ここは選ぶならボクでしょー。ねー、唯。エロサイトなら生きてるんだよ! エロサイト探しならボクに任せてよー」
「どっちでもいいよ」
 興味なさそうに言った唯の足元に何かが巻きつく。
「そんなことより、俺様チャンとゲームしようぜー」
 彼女の足に巻きついたものは昔のゲーム機のコントローラだった。テレビの脇ではその本体がコードを使って器用に手招きしている。
 唯は頭の上のキョウを剥がしてコントローラの前に置いた。
「相手してあげて」
「ええー! 俺かよ! 遊の相手はしんどいんだぜぃ? つまりは御褒美には俺が確かめたパンツの色を肌で感じていいのかよ!」
 遊と呼ばれたコントローラを掴んでキョウに叩きつける。粉々になったキョウは沈黙した。
「朝御飯の用意したいから」
 隣にある台所に入る。
「食べるものはあるか?」
 居間から甘柿の重い声がした。
「昨日の残り物、食べる」
 テーブルの上に置いていた鍋を取り、ガスコンロの上に乗せると自動的に火が点いた。後ろで何かが飛び跳ねる音を聞き、唯が振り返ると電子レンジがドアを開閉させながら跳ねている。
「味噌汁は爆発するから」
 言いつつ、テーブルの上にあった別の小鍋を開け、中身である芋の煮っ転がしを小さな器に移して、レンジに入れた。戸が閉まり、勝手に加熱が始まる。ガスコンロも、どこからか白い手を生やし、勝手に味噌汁を掻き混ぜていた。
「ありがと」
 しばらくして温まった料理をテーブルに置き、炊飯器から御飯を盛って、唯は一人で食べ始めた。
 芋を小さな口に運び、味噌汁に口をつける。
「田の神、田吾作の持ってきた飯だ。うまいだろ」
「うん」
 隣の部屋から聞こえた甘柿の声に頷き、食事を続ける。
「甘いものはいらんか?」
「いらない」
 唯の即答に甘柿が小さく溜息をつく。
 その吐息を掻き消して、居間からガラスが割れる音が聞こえた。
「なーんてことしやがる! このガキーッ! てめぇのやり口は汚ねぇんだよー!」
 キョウの怒声が響く。
「パターン丸わかりの単調な動きなんて、俺様チャンには丸わかりだってーの! 嫌なら、もっと頭使え、アホー!」
 遊が投げ飛ばされ、ガラスの破片が飛び散った。
「うるさいぞ」
 甘柿の声と共に、空いた窓から植物の蔦らしきものが入り込んでくる。それは瞬く間にキョウとコントローラを巻き込み、すり潰しながら外へ放り出した。
 唯はそれを目の端で見ながら黙々と食事を続けている。
「投げるこたないだろうが! おらー!」 
 遊のコードと蔦に絡まったままのキョウが窓から顔を覗かせる。
 その直後、突如轟いた雷鳴が古い木造を震わせた。
「なんだぁっ!?」
 振り向いたキョウの後ろ、境内の向こうに見える空に稲妻が走る。いつの間にか立ち込めた黒雲から、青白い光が空を裂いて落ちていく。雷鳴も稲妻も一度では終わらない。さらに鳴り響く轟音が屋根を揺らし、続けざまに落ちる雷が空を眩く染める。
 唯は食事を置き、雷から身を隠そうとでもいうように屈んでいた。
「唯」
 台所にやってきた甘柿が大柄な身体で彼女を覆い、小さな背中を撫でる。
 唯の身体が震えていた。薄い唇を噛み、床を見詰めたままで身体を縮こまらせている。
「甘柿様、あれはもしかしてよぉ」
「神戦だな」
 キョウの声に甘柿が重い声で答えた。
 大きな掌が唯の背中を優しく叩く。
「大丈夫だ。ここまでは来ない」
 唯は何も言わない。ただ懸命に目尻を拭う。
「様子を見てこよう」
 表に出ようとする甘柿の外套を唯が掴んだ。
「私も……」
「大丈夫か?」
 彼の言葉に頷き、唯は共に外に出る。
 境内から見える東の空が一面の黒雲に覆われていた。神社の真上には抜けるような青空が広がっている。蛇のいる池の上空にだけ雲があったが、それを膨らませたような光景だ。
 表に出た甘柿は唯の肩を抱いて立つ。彼女の頭の上にキョウが飛び乗った。
「近いな」
 甘柿の呟きに、唯の肩がかすかに震えた。
「どこの神が始めやがったのかねぇ。阿呆らしい。俺様みたいに、唯の服透かして満足する生き方できない奴は馬鹿だぜ!」
 甘柿が大きな瞳でキョウを見る。
「いや、阿呆は俺でしたー!」
 キョウは飛び下りて勝手に割れた。
「む……」
 粉々に砕けた鏡を気にすることなく甘柿が参道に目をやる。高台にあるこの神社に来るには町から長い石段を登る他ない。
「客か」
 その石段からかけ声が聞こえてきた。神輿でも担いでいるような威勢いい男たちの野太い声が聞こえてくる。
 最初に見えたのは綱を肩から担ぐように提げて引っ張る男たちだった。髪を短く刈った頭に捻り鉢巻を巻きつけた屈強な男数人が鳥居の前に姿を見せる。先頭にいる男だけは黒のサングラスをかけていた。
 さらにその後ろから車の排気音が聞こえてきた。
 男たちが石段を登りきった。彼らの後を追うように爆音を上げて境内に一台の車が乗り上げてくる。光沢を帯びた黒い車体を持つ大型の乗用車だ。それが男たちに引かれながら石段を登ってきた。
 車が境内に乗り込むと共に、男たちが地面に突っ伏す。完全に息が上がっていた。辛うじて倒れずにいるのはサングラスの男だけだ。
「おっそいですわよ! このマヌケたち!」
 車のボンネットが口のように開閉し、そこから凛とした女性の声が飛び出した。
「うるせぇよ。メルセデス! てめぇみたいなデカブツ引いて上がれってのが、そもそも無理な話じゃぁねぇか」
 サングラスの男が荒い息を吐きながらも言い返す。
「お黙り、下僕。お前が今ここで呼吸してられるのが誰のおかげか思い知らせてあげますわよ! ほうら!」
 メルセデスと呼ばれた車の後方から黒い排気ガスが噴出す。
「ぐおっほ! てめ、屁か! 屁をこきやがったかー!」
 咳き込みながらサングラスの男が叫ぶ。
「な……!? そ、そんな下品なこと、このわたくしがするわけないでしょ!」
 メルセデスが跳び上がってわめく。
「轢き殺しますわよ、このクズどもっ!」
「やかましい! わけわからんことさせる奴が悪いんだろうが!」
 男がボンネットを叩いて怒鳴りつけた。
「むきーっ! お黙りですわー!」
 黒塗りの車体がサングラスの男をはねた。その下で、別の男の悲鳴が聞こえる。
「貴様ら、うるさいぞ」
 甘柿が静かに言うと、境内に植えられた木々がざわりと音を鳴らし、鳥居の上では黒い影のようなものが蠢く。
「こ、これは失礼しました。甘神命。わたくしとしたことが。おほほ」
 メルセデスが男の後ろに隠れる。
「いや、隠れることできてないからな。お前」
 サングラスの男がまた軽くはねられた。
「さわがしくて、すまんのう。甘柿の」
 その後ろからまた別のものが上がってきた。
 湿った音を鳴らしながら、泥を盛ったような塊が登ってくる。人間程の大きさの泥が這いずりながら境内に現れた。
 そこで塊がその姿を変じた。泥が隆起し、細く動物の首のように伸びると、その先がぱっくりと二つに割れる。地面を這いずる泥の塊が四本の足と化して立ち上がり、その形が徐々に洗練されていく。
 数秒を待たず、泥でできた狐がそこにいた。余分な泥を払うように首をブルブルと振ると、毛の一本一本までがよくできた彫刻のように綺麗に揃う。
「こ奴らとはそこで会ったんじゃ。こっちに来るつもりだったようだからの」
 土色の狐が石段を見下ろして言った。
 その頭上に雀が舞う。何十羽という雀が集まり、風呂敷を抱えて、唯たちの方へ飛んできた。
「いつもすまんな。田吾作」
 甘柿が軽く頭を下げた。
「何。わしも唯を好いてるからの。そうでなければ、こんなところまで来るか」
 田吾作と呼ばれた泥狐がカラカラと笑う。
 雀たちが舞い降り、風呂敷を下ろした。包みの中にダイコンやニンジンが見える。
 唯がぺこりと頭を下げた。
「いやー。唯ちゃんは今日もかわいいなー」
 サングラスの男が唯に微笑んだ。
「前川さん。今日は?」
 唯が甘柿の手を握りながら尋ねる。
「いや、何。俺は何も用はねぇよ。こいつが散歩に出るっていうからさ。いつものとおりだな」
 まだ隠れている車を叩く。
「こいつと抜かしましたわね」
 サングラスの男―前川はまたはねられた。
「おいこらー! てめぇ、地味に痛ぇんだぞ! 痣になるんだぞ、おい!」
「命の恩人に取る態度ではないでしょう? わたくしがいなければ、貴方がたも食われてますのよ? それとも、わたくしが食ってやりましょうか、人間!」
「ちっ。俺らだって、忘れちゃいねぇよ。そうでなきゃ、こんな阿呆な真似しねぇっての。なぁ?」
 前川に言われ、メルセデスを引っ張ってきた男たちが苦笑しつつも頷く。
「まぁ、あの時は驚いたぜ。有象無象の神どもに追われてたところを、愛車が助けに飛び込んできたんだ。そうでなきゃ、嫁と同じ目にあってたさ。俺も……こいつらも。今、生きてることに感謝してんだぜ……。メルセデス」
 しみじみと呟き、前川がメルセデスのフロントガラスを見詰める。その真剣な面持ちに、メルセデスのエンジン音が異音を鳴らした。
「な、な、何を当たり前のことを言いますの!? 今更ですわよ。だいたい、貴方、わたくしの下僕なんですから、そんなこと……。下僕を助けるのなんて、当然ですわよ。ねぇ?」
「わしに聞くかね、そこで。わしは人間はどうでもいいけどなぁ」
 田吾作が欠伸する。
「唯ちゃんは、この町を守護する甘柿のとこの巫女だから、大事だがね。お前らは、空腹のわしに出会わぬように気をつけるんだな」
「そりゃ怖ぇや」
 前川が冗談めかして言った。
 その時、東の空でまた雷光が煌いた。東から風が来る。雷鳴が重々しく響き、境内の木々が葉を散らせた。
「東の山の神だの」
 田吾作が吐息する。
「どことだ?」
「西にある川の神とやり始めたそうだ。いつか始まると思っていたが、案外早かったの。ここらじゃ、久々の大きな神戦だ」
 甘柿に答えた田吾作の背に先程の雀たちがとまる。
「ニュースは来てないか?」
 甘柿が家の中へ問う。窓から顔を出した、新聞が首らしき部分を横に振った。
「こんな片田舎の神戦、記事になる程ではないということだろうの。あいつらには日常茶飯事だ。まぁ、わしらのような弱く新しい神にとっては、たまったもんじゃないがの」
 空に広がった黒雲は徐々に西へと広がり、町の端にかかっていた。その先には、彼らがいる甘柿神社がある。
「かなわんな」
 甘柿が包帯の上から顔を掻いた。唯が彼に身体を寄せる。うつむいた表情はどこか強張って見えた。
「はっ! 雑魚神如きが何匹来ようが、俺様の敵じゃぁねぇぜ? なんせ、痴漢に使われた手鏡の神たる俺様は、服の上から下着を覗ける力を持ってるんだぜー!」
 唯の頭の上でキョウが跳ねる。
「いいことを教えてやる! 唯の本日のパンツはっ!」
 唯はそれを掴んで叩きつけ、踏み砕いた。さらに境内の樹が根を引っ張り出して歩き出し、破片を蹴り飛ばす。吹っ飛んだ破片は田吾作の雀が残さず摘んで、四方八方にばら撒いた。
「そこまでするかよ! てめぇ、俺は死なないが、これはほんと、あかんぞ!」
 三秒程で蘇ったキョウはかなりの部分が欠けたままだ。
「食おうか?」
 甘柿が分厚い唇を舐めて尋ねる。
「めっそうもない。そんなことされたら、マジで消えますゆえ。内緒な? 唯、パンツ、内緒な? 黒色って内緒な?」
 唯は深く溜息をついて東の空を見上げただけだ。
 黒雲の下に長く黒い体がうねるのが見えた。雷鳴を背にして踊る、頭に角を備えたその影は龍の姿にも見える。
 黒い雲はいまだ広がりを見せていた。薄い雲が神社の上にもかかる。
 ポツリポツリと雨が落ちてきた。
 境内に立つ神々と、人間たちは不安げな面持ちで空を見上げる。
「降ってきたの」
 田吾作が言うが、甘柿は答えない。
「わしは帰るとしようかね。お主らはどうする?」
「わたくしも濡れるのは好きではありませんわ。車庫まで全力ですわよ。前川」
「はいはい」
 サングラスを上げると、前川は男たちに立つように促す。それぞれが来た時のように綱を握った。
「それじゃ、俺らも帰ります。甘柿様。唯ちゃんも、元気でな」
 手を振る前川に、唯は小さく手を振った。
 そうしている間にも、雨は急激にその強さを増していく。
 甘柿の外套が水を吸って重く貼りつく。大柄な身体を覆う黒布の下、彼の左腕があるべき場所に外套が貼りついていた。
 唯の前髪から水が滴り落ちる。
 田吾作が泥に戻り、石段を流れ落ちていき、その後に前川たちが続いた。石段を少し降りれば、彼らの姿は見えなくなる。
「濡れるな。戻ろうか」
 甘柿に促され、唯は住居でもある社務所に戻る。
「では、拙者は雨の下で修行を」 
 大将が彼女たちと入れ代わりに外に出て行った。

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無題
伝統的な巫女装束は袴がズボンのようになっているんですが。
スカートのような袴は明治になってから。
西洋のスカートを参考にして既存の袴を改造した和洋折衷物です。
ゆえお 2007/12/14(Fri)08:12:39 編集
ややや
>ゆえおさん
貴重なお話ありがとうございます。
所謂馬乗り袴の方が後にできたものだと思っていました。
もっと知識を深めることができるように精進します。
玉造 2007/12/15(Sat)23:25:13 編集
無題
資料も提示しますね。

《資料1》ズボン型の緋袴。
//twintail.pekori.to/photo/20030305/03050016.JPG

《資料2》巫女装束の原型、十二単に下着袴。
//mikusigedono.hp.infoseek.co.jp/mikusigedono/gosinpuku/gosinpuku-nagabakama/gosinpuku-nagabakama.htm

《資料3》歴史背景
//homepage2.nifty.com/erectricalmuseum/jinjya_syouzoku.htm
//www.yusoku.com/newmiko.html
//kimono-server.com/wasomenu/dansei/hakama2.htm

《資料4》現存するズボン型を採用する神社
//f1.aaa.livedoor.jp/~himemiko/honden/houtoku/houtoku.html
//f1.aaa.livedoor.jp/~himemiko/honden/tokyo01/meguri2.htm

URLにしてください。

服飾文化を知る者の意見として、一言。
スカート型袴の巫女描写は実に不愉快ですね。
日本古来の伝統・文化をないがしろにし、
欧米文化に毒されたモノに迎合するという
一種の西洋崇拝的なモノを大和撫子と騙るのですから
ゆえお 2007/12/18(Tue)20:22:00 編集
わざわざすいません
>ゆえおさん
資料拝見いたしました。
どうもありがとうございます。
今後の参考にさせていただきます。
玉造 2007/12/20(Thu)23:24:49 編集
in fashion
buy <a href=http://www.adultsrus.us>buy dildos</a> online
Wereceadene URL 2014/05/03(Sat)07:36:21 編集
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