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ライトノベル作家、八薙玉造のblogです。 ここでは、主に商業活動、同人活動の宣伝を行っております。
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 ライトノベルをガリガリと書かせていただいている身の上です。

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 夏コミに向けて、着々と準備を進めています。
 『続 妖怪超人バンニュード』ひとまず初稿もあがり、冒頭部分の推敲作業も進んでいますので、現段階の冒頭部分を公開しようと思います。

 『続 妖怪超人バンニュード』は『妖怪超人バンニュード』の完全な続編になります。前作なしでも楽しんでいただけると思いますが、お話や設定の前作への依存度が他作品(アメリポンなど)よりも高いため、一応、『妖怪超人バンニュード』を御覧いただいた方が楽しめると思います。

 以下、前作のあらすじ。本作のあらすじ。そして、登場人物紹介となります。
 前作未読の方には軽いネタバレとなりますので、御了承ください。

※ 2007年7月28日に加筆修正しています。

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■前作のあらすじ
 その世界には正義の味方がいる。
 『妖怪超人バンニュード』。それは妖怪造人間と呼ばれる妖怪の力を持つ改造人間を用いて破壊活動を繰り返す謎の組織『伊邪那美』と戦う仮面の男の名だ。最近ではワイドショーにもよく出ている。
 そんな夏のある日、大学生、獅子藤春香は『伊邪那美』の妖怪造人間に襲われる。そこを救ったのが妖怪超人バンニュードだった。しかし、バンニュードは無職で貧乏。明日の食べ物にも今日寝る場所にも困る男だった。カレーをご馳走したことで、バンニュードと関わることになる春香。
 バンニュードを付け狙う『伊邪那美』の大幹部『風神 千眼行者』は彼女拉致し、バンニュードに戦いを挑んだ。春香を人質に取られた上、罠に能力を封印され、さらには再改造によってパワーアップした千眼行者の強さに、バンニュードは絶体絶命の危機に陥る。
 しかし、袖引き童女―袖姫の助けと、春香の激励を受けたバンニュードは最後の力を振り絞り、千眼行者を倒すのだった。


■『続 妖怪超人バンニュード』のあらすじ

 千眼行者との戦いを潜り抜けたバンニュード。
 春香と同居生活を送る彼は、ついに念願のバイトを見つけることができた。『伊邪那美』の活動も小康状態にあり、幸せな日常を満喫するバンニュード。
 しかし、そんな彼の元に、バンニュードを倒すために作られた妖怪造人間が、そして、『伊邪那美』の大幹部の一人『剣神 焦尾』が姿を現す。
 圧倒的な力の前に成す術もなく倒されるバンニュード。その時、彼の身に異変が起きる。
 二人目の大幹部『剣神』との戦い、そして、更なる強敵との戦いを描く伝奇ストロング変身超人長編第二幕! もう、どんなジャンルかわからないけど、まぁいいや!

■登場人物紹介
妖怪超人バンニュード/大車輪(おおぐるま・りん)
 主人公。『伊邪那美』に拉致され、輪入道の妖怪造人間とされた男。一応、元大学生。『伊邪那美』の悪事を挫くため、命を賭けて戦うが、そのために定職に就くことができずひたすらに貧乏。春香の部屋の隅を借りて、明日の定職を夢見て戦う。
 涙脆く、気も弱いが、輪入道の特性として炎を操り、車輪に変型して空も飛ぶことができる。車輪形態での体当たり、バンニュードアタックは絶大な威力を誇るが、構造上前が見えなくなるという欠陥によく泣く。

「だけど、俺はいつか……いつか……。世界が平和になれば就職を」


獅子藤春香(ししふじ・はるか)

 東京都在住の大学生。『伊邪那美』の妖怪造人間に襲われていたところをバンニュードに助けられ、後に行き倒れている彼を拾ったことが縁で同居生活を送ることになる。
 非常に理性的で、常に理詰めでものを考えることをモットーとしている。そのため、輪の夢見がちな言動に鋭く抉るようなツッコミを入れ続け、つい泣かすこともしばしば。その反面、彼を捨て置くことができない母性的な面も見え隠れする。

「時間までに戻らないと……。大車さん、またバイト、クビになるわね」


袖姫(そでひめ)
 人とは違う存在。妖怪とも呼ばれる八百万の神の一柱であるが、通称―袖引き小僧。黒髪をおかっぱに切り揃えた童女の姿をしているが、年齢は不詳。自在に姿を消すことができ、神出鬼没。『伊邪那美』に捕らわれていたところをバンニュードに助けられ、以後、彼を助けて行動している。
 老いた口調で冷たく突き放した言動を繰り返すが、実のところ、バンニュードのことを気にして助け続けている、よき理解者。よくワンカップを呷っている。

「おい、輪。これはチャンスだぞ。春香を篭絡し、養ってもらいながら戦うという作戦はどうだ」


名前不詳の化け狸
 冒頭で妖怪、肉吸いと死闘を繰り広げる狸の妖怪。
 木の葉を用いた変化の術を使い、刀の扱いを得意とする。今作におおいに関わる男。



■予告編
   
 生暖かく湿った空気に木の葉がざわめく。かすかな月光も遮る生い茂る木々の下、暗い闇に沈んだ夜の山に一人の男がいた。艶やかな黒髪をオールバックに撫でつけた壮年の男だ。落ち着いた輝きを宿したその双眸を細め、彼は咥えていた煙草に火をつけた。夜闇の中、煙草の赤い火がちらつく。後ろで束ねた黒髪が尾のようにふらふらと揺れていた。
 月が動いたのか、青白い月光が木々の間を縫い、男を照らす。煙草をくゆらせる男は、薄手のシャツとほっそりとしたブラウンのパンツを身につけていた。その腰に大きな皮製のベルトが見える。ガンベルトを彷彿とさせる太い皮のベルトの左腰には拳銃のホルスター代わりに掌大の鞄が取りつけられていた。
 男の背後で土を踏む足音が聞えた。暗闇の奥から一人の少女が歩み出てくる。茶色の髪を肩口で乱暴に切り揃え、身軽なティーシャツに袖を通した若い娘だ。カットジーンズから伸びる白い腿が健康的な色気を醸し出す。
「火、貸してくれへん?」
 男の背後に歩み寄り、少女が尋ねる。
「あぁ」
 男は咥えた煙草を摘むと、逆の手で胸のポケットからライターを取り出し、後ろも見ずに差し出す。少女の白い指先が鉄製のオイルライターに触れた。
 瞬間、少女の手を男が掴む。そして、自分に引き寄せながら身体を反転して向き直り、逆の手で引き抜いた煙草を少女の眼球へと突き込んだ。引き寄せられた少女の自由な手が男の胸に触れる。
 肉を切り裂き、さらに硬いものを刺し貫く異音が少女の頭部から生じた。彼女の後頭部から血に塗れた刃が生えていた。少女の目に突き込まれた煙草が消え、それがあった場所に日本刀が出現し、彼女を貫いている。
 同時に男が少女から逃れるように後方へ跳んだ。その胸がいきなり血飛沫を上げる。
 男の喉から苦悶の吐息が漏れ、その身体が地面に転げる。男の胸に触れていた少女の掌が異様な音を立てていた。何かを咀嚼するような水音を立て、少女の手から鮮血がこぼれ落ちる。その中心に肉の塊が消えていく。肉に混じる骨の塊が硬い音を立てて砕け、掌に食われた。
 男が立ち上がる。その胸の中心が大きく抉れていた。刃で切り取られたように綺麗に破られた皮の下、赤黒い肉が剥き出しになり、折り取られた骨さえもが露出している。溢れ出た血潮が男のシャツを赤黒く染め上げていた。男は咳き込み、血の塊を吐く。
 それでも彼は立っていた。
 対する少女は右目を貫通し後頭部へ抜けた日本刀を無造作に掴み、引き抜く。溢れ出た血潮で顔の半分が朱に染まるが、少女もまた気にした様子もなく、抜いた刀を放り捨てる。
 捨てられた刀が空中で白煙を上げた。刀が消え、代わりに一枚の木の葉がゆっくりと舞い落ちていく。
「なんべんもなんべんも御苦労なことやなぁ、自分」
 右目を潰された少女が呆れたように両手を上げた。
「なんべん、イテもうたれば気が済むねんや」
「無論、わしが勝つまで」
 男が腰に備えた小型の鞄に手を伸ばす。拳銃のホルスターのように取りつけられた鞄の中には数十枚の木の葉が収められていた。指先でボタンを外せば木の葉が露出する。その一枚を指に挟み取り出すと、彼はそれを頭の上に乗せた。
 小さな破裂音を立て、男の身体が白煙に包まれる。その中心から生じた風が煙を吹き散らし、周囲の落ち葉を撒き散らす。
 白煙が晴れた後に男はいなかった。
 そこに立つのは濃い茶色の体毛に身を包む一匹の狸だ。狸の身長は男とほとんど変わらない。巨大過ぎる身体が人と同じように直立している。丸みを帯びた長い尾だけがゆらゆらと揺れていた。尾の先の体毛だけが黒く焦げたような色をしている。
「化け狸め」
 少女が呟き、月光に照らし出されたその影が伸び始める。少女の身体もまた変化を見せていた。シャツとカットジーンズが内から破れて弾け飛ぶ。肉と皮を突き破り、少女の身体から無数の骨の塊が突き出し伸び上がり、乱暴に組み上がっていく。少女だった肉と皮が地面に落ち、積み上がった骨がいびつな巨人と化した。
 眼前の狸を見下す程に膨れ上がったところで巨人は動きを止める。乾ききった皮が骨ばかりの人型を覆い、より歪んだ人の姿を形作る。
「肉吸い。今日は勝つ」
 骨と皮の巨人を見上げ、狸が言う。
「阿呆ぬかせや! 今日こそ死ぬまでボテくり回したるわ!」
 肉吸いと呼ばれた巨人が両腕を振るった。骨の塊が繋がり、伸び、二本の腕が狸へと襲いかかる。
 対して狸は一歩も動かず、右の一撃を身を振ってかわしながら腰に手を当てた。腰のホルスターに仕込まれた木の葉の一枚を指先に挟みながら、身を沈めていく姿勢は居合の構えに似ている。
 そこに肉吸いの二撃目が迫る。指先に挟んだ木の葉から白煙が立ち上り、同時に男の右手がしなり、振り抜かれる。煙を破り、確かな鞘走りの音を奏でながら一条の剣閃が舞った。
 狸の右手には一本の日本刀が握られていた。肉厚の刃が月光に煌き、迫り来る骨の腕を切断する。さらに刃を返し、先程かわした右の腕をも斬り飛ばした。
 左手に握っていた鞘を捨てながら、狸は両腕を失った肉吸いの巨体へと踏み込む。そこへ肉吸いの身体を構成する骨の塊がぶち撒かれた。空中で叩き合い、砕き合った骨が散弾と化して狸へと襲いかかる。
 狸は刀の一閃で降りそそぐ骨片を打ち払う。落としきれなかった数発が肩を抉り脇腹に突き刺さるが、彼は止まることなく、さらに踏み込んでいく。腹に開いた傷が血を流すがそれすらも気にしていない。
 骨の巨体が震えた。その腹に当たる場所から突如三本目の腕が生える。やはり骨で構成された巨腕が、生えると同時に狸へと真っ向から迫る。八本ある指が大きく開かれた。
 狸の刀が巨腕へと真正面から叩き込まれた。大きく開いた掌に刃が触れた瞬間、鉄の刀身が削れるように食われて消える。繰り出された骨の腕は勢いを止めない。とっさに地面に転げてかわしながら次の木の葉を掴み、刀へと変えながら振り抜く。三本目の腕が真下からの斬撃に切断された。
 狸は空いた手で大地を打って身を起こし、さらに前へと突き進む。肉吸いが刀の間合いに入るまで、まだ数歩ある。
 地面が揺れた。木の葉と土を散らしながら地面が盛り上がり、白骨の腕が地中から姿を現す。先程までの腕と違い、その太さは人のものと変わらないが、腕は次々と生えてくる。肉吸いの足が地面に潜り込んでいた。数十本の腕が地中から狸へと襲いかかる。
 無数の腕が足を掴もうとした時、彼は呟いた。
「奥義……千畳敷」
 迫る骨の群れと足の間に突如白煙が生じる。そして、そこに忽然と一枚の畳が姿を現した。押し寄せる腕が畳にぶつかり、阻まれる。
「吸われへん…!? 何でやねん!」
 肉吸いが驚愕の声を上げた。
 手を押し留めた畳を踏み、狸が跳ぶ。狸の跳躍と共に白煙を纏い、畳が消え、肉吸いが刀の間合いに入る。
 狸の喉から鋭い呼気が漏れた。閃いた刀は防ぐ間も与えず、肉吸いの胴を真横から薙ぎ、両断する。
 だが、直後、真っ二つに裂かれた骨の身体は互いに菌糸のような細い骨の破片を伸ばし合い、結びついていく。
「そんなもんで、神が死ぬかっ!!」
「わしも同じ神だ」
 着地し、胸の傷から血を噴出しながら、振り抜いた刀をそのまま放り捨てた。そして、開いた手で腰のホルスターから木の葉を掴み取り、一気にばら撒く。狸の周囲に数十枚の木の葉が渦巻くように舞い散る。
「ゆえに百も承知」
 狸の手が舞い落ちていく木の葉の一枚を掴み、居合の構えで左腰に添えた。呼気と共に血を吐き出しながら再び木の葉を日本刀に変え、同時に抜き討つ。繋がりかけていた肉吸いの身体が再び両断された。
 狸は動きを止めない。骨の身体を横真っ二つに引き裂いた刀をそのまま放ると、別の木の葉を掴み、次の居合へと移行する。身を回しながら続けざまの斬撃が肉吸いを襲う。横一文字に引き裂かれた身体が今度は逆袈裟に斬り上げられた。切断されずれ落ちていく肉吸いの身体が途中で止まる。やはり再生していた。それでも、狸は刀を捨て、次の居合を叩き込み、さらに刀を投げ捨て、居合の連打を繰り出していく。
「ぐ……がぁっ!! じ、自分……っ!?」
 肉吸いが苦痛の声を上げたが、狸は攻撃の手を緩めない。捨てられた刀が地面に積み重ねっていく。高速で再生する骨の身体が縦横に、斜めに斬り飛ばされ、瞬時に接合された傷を再び切り裂き、再生に倍する速度で引き裂いて破壊する。
 苦し紛れに至近距離から骨の散弾が吐き出されたが、狸はもはや避けようともしない。胸を貫かれ、肩が抉れ、瞳を潰されて、血塗れになりながらも居合の嵐を止めようとはしない。
 肉吸いの右半身がゴロリと落ちた。さらに頭らしいものが転げ、切り飛ばされた左肩が空中で寸断される。
 肉吸いのうめきが徐々に弱くなり、やがて一際高い断末魔が上がる。もはや残されたものは頭部らしき頭蓋骨に似た骨の塊だけだ。
 狸が鞘を放り捨てた刀を大上段に構え、重々しい踏み込みと共に一気に振り下ろす。刀は頭蓋骨の頭頂部から顎までを両断した。文字通り八つ裂きにされた骨の身体に皹が生じる。
 狸の手の中にある日本刀がか細い煙を上げ、木の葉に戻り、投げ捨てた刀もそのことごとくがただの落ち葉へと還った。
 切り裂かれた肉吸いの頭蓋が地面に転げて砕け、罅割れていた骨も全てが粉々に割れていく。
「死ににくいだけだ。わしらは」
 呟いた狸の全身から血がしぶいた。

   ◆ ◆ ◆

 既に日が傾き始めた空を見上げ、獅子藤春香は小さく吐息した。手にした携帯の液晶には買い物に出る際に記録しておいた買い物リストが表示されている。ずいぶんと歩いたはずなのに、まだ洗剤とトイレットペーパーという大物を買っていない。これから買わなければならないと考えると少々憂鬱にならざるをえない。加えて、十月に入ったというのに、気温にはまだまだ夏の名残がある。長袖のシャツの上に水色のカーディガンを羽織り、チェックのスカートを揺らしながら歩いているが、実のところ、暑くてしかたがない。額に浮いた汗をハンカチで拭い、春香はもう一度吐息する。
「あとは……トイレットペーパーと、洗剤と……。あ、今日は卵が安い日よね」
「いや、ちょっと待った! ちょっと待った! まだ買うのか」
 春香の後ろから抗議の声が上がる。振り向けば両手一杯に荷物を提げた男が荒い息を吐いていた。短く切った髪を立たせた長身の男だ。半袖のシャツに袖を通し、ジーンズを履いた男は、鍛えられた太い腕で、中身が一杯に詰まったスーパーの袋を握り締めていた。袋の中に詰め込まれているものは一週間分の食材と生活用品の数々だ。
「さすがにこれ以上は辛い。日々鍛錬大好きな俺でも、これは辛い」
 額に汗を浮かべ、男がうめく。彼が持つ荷物は両手に提げた袋だけではない。その肩には大きなスポーツバッグが引っ掛けられていた。
「大丈夫よ。後はトイレットペーパーと洗剤だけだから。バス亭まで運んでもらえれば、後はアパートまで何とかするわ。袖姫さんもいるんだから」
「うぅ……。しかし、こんなに買い込む必要があるのか?」
「あるわ。だって、一度に買い物すれば、バス代も時間も浮くから。ちゃんと電卓使って計算したぐらいよ」
「こまかっ!?」
「大車さんが大雑把なのよ。だいたい、もうすぐバイトの時間なんだし。元々、大車さんはこっちに出なければいけなかったんだから。ほら、ここで手伝ってもらうことも理にかなってるじゃない。わかりましたか、大車輪さん」
「子供に言い聞かせるような上からの物言い! しかし、その説得力に逆らえない俺がいるのか!」
 大車輪と名指しで呼ばれた男はがっくりとうなだれた。



「まぁ……最近落ち着いてるんだからいいじゃない」
「獅子藤さんにしては適当な発言だなぁ」
 輪は苦笑しつつも頷くと再び歩き出すが、やはり足取りは重い。春香は荷物とは別に彼が担いでいる鞄をじろりと見た。
「……というか、その大荷物を置いてくればよかったんじゃないの? それこそ、最近は落ち着いてるんだから」
「これか……」
 輪は首だけで振り返り、自分が担ぐ荷物を見て首を傾げる。
「そういうわけにはいかない……か」
「落ち着いてるって言っても、いつ何があるかわからないからなぁ」
 苦笑しつつ、輪が担ぎ直した荷物の中身を春香は知っていた。大きなスポーツバッグの中に実用的なものはほとんど入っていない。そこに収められているものは、型の古いラジカセと、フルフェイスヘルメットを改造した赤いマスクだ。どちらも彼が日常生活で用いるものではない。
「万が一はあるかもしれないってことね……」
「気にするな。どうせ苦労するのは輪だ」
 鈴の音のように透き通った女の声がした。続けて袖を引かれ、振り向けば、そこに一人の少女がいる。黒髪を肩のあたりで切り揃え、薄い藍色の着物を着た童女だ。歳不相応に落ち着いた輝きを宿した黒い瞳が春香を見上げている。
「そもそも、人の数倍膂力があるくせに、要領が悪過ぎるのだ」
 輪を一瞥し、少女が鼻を鳴らす。
「そう言われてもなぁ。袖姫、適当言うなよ」
「使い方が悪ければ力も持ち腐れという奴だ。まぁ、馬鹿だからなぁ」
 袖姫と呼ばれた少女が一人頷く。
「失礼な。俺だって、やればできる子なんだ。なぁ、獅子藤さん」
「ゴメン」
 春香が躊躇せず首を横に振ると、輪は荷物に押し潰されるようにがっくりと膝をついた。
「そんなことよりもイカ焼きだな、あれは。こっちじゃ珍しいな」
 崩れ落ちた輪を顧みもせず、袖姫が指差す方を見れば、そこにはイカ焼きの出店が出ていた。
「あ、そういえば。いつも出てる店ではあるけど」
 いつも駅前で見る出店だが、関東ではイカ焼きの店自体が少ない。考えてみればいつも意識すらせずに通り過ぎていたことに春香は気づく。
「食べる? 袖姫さん」
「うむ。食べてみたい。わしは卵、キムチ、ネギ入りで」
「ぜ、贅沢だぞ、袖姫! 卵キムチ入りだと百五十円も上がるぞ、値段が!」
 立ち直った輪が食い下がるが、袖姫は彼を冷たい瞳で一瞥し、冷笑を浴びせる。
「笑われた!? どうしてだ、何故、笑う! もったいないだろ」
「……あたしが奢るから。大丈夫よ、大車さん。卵、キムチ、ネギ入りのデラックスでも。というか、あたしもデラックスにするから」
「し、しかし! 奢ってもらうわけには! そもそも、俺、獅子藤さんには厄介になりっぱなしで」
「荷物持ってもらってる御礼だと思って」
 いまだ躊躇する輪を置いて、春香は卵、キムチ、ネギ入りのデラックスイカ焼きを三つ買った。イカ焼きを置いた発泡スチロールのトレイから、ソースとキムチ、それにネギの香りが混じり合い食欲をそそる匂いが立ち上る。輪の腹がおもしろい程に鳴った。
「この後、バイトもあるんだから、食べておかないと」
 言いつつ近くにある小さな公園に足を運び、ベンチに腰掛ける。春香の隣に袖姫が座り、さらにその横に、荷物を置いた輪が腰を落ち着けた。
 三枚の皿をそれぞれに配り、春香は箸を割り、イカ焼きを口に運ぶ。イカ焼き特有の歯応えある食感に、ネギとキムチの歯応えが混じり、心地よい噛み応えを味わう。ソースの濃い味とキムチの風味が薄味の生地を引き立て、春香は思わず瞳を細めた。
「う……うぅ。俺は卵なし、ネギなしでよかったのに……。よかったのに……」
 黙々と食べる袖姫の横で輪が泣いていた。
「あれ? もしかして嫌いだったの?」
「違う! 違うんだ! 俺は……俺は……こんなによくされて、よくされて……!!」
 輪は流れ落ちる涙を拭きもせず、鼻水を啜りながら一心不乱にデラックスイカ焼きを貪る。
「大車さん、イカ焼きなんかで泣かないでよ……」
 袖姫が輪から微妙に距離を取っていた。
「うぅ……。俺が……俺がこんな身体じゃぁなければ結婚すら申し込むところだぜ、獅子藤さん」
 春香は飲み込んでいたところだったイカ焼きを即座に喉に詰めた。キムチとネギが鼻の奥に上がってきたのを全力で引き戻しながら、むせる。
「……そんなことで嫁選び考えないでよ。イカ焼き奢って求婚されるとか、ほんとどうかと思うから」
 荒い息を吐きつつ、いまだ涙の止まらない輪を呆れ顔で眺める。
「そういえば、春香は彼氏がおらんのか? この風俗が乱れた世に」
 大きめのイカを咥えたまま、袖姫がボソリと言う。
「乱れたって言わないで。そもそも、いるなら、大車さんを泊めてあげたりしてるわけないじゃない」
「すまん。俺のために、すまん」
「その言い回しだと、大車さんがいるから彼氏ができないように聞えるわね。言っておくけど、別に男友達がいないとかそんなんじゃないからね」
 言い放ち、残っていたイカ焼きを一気にほうばる。少々言い訳がましい気もしたが、そもそも、そういう色恋沙汰に絡むような話は意味があるとも思えないので得意ではない。恋愛をしたところで、時間とお金の損失が大き過ぎると春香は考えている。
「おい、輪。これはチャンスだぞ。春香を篭絡し、養ってもらいながら戦うという作戦はどうだ」
「ば、馬鹿! 袖姫。そんなことできるか。俺みたいな、無職で指名手配まで食らってる奴が、そんな……獅子藤さんとなんて、そんな……そんな……」
「モジモジした態度とらないでよ。真剣に」
 春香が大袈裟に溜息をつくと、輪はがっくりとうなだれた。落胆を隠すこともできないその横顔を見つつ、春香は、例えば実際に大車輪と男女として交際することになった状況を考えてみる。
 冷静に考えれば、春香は輪の頼もしさを既に目の当たりにしている。夏の終わり、輪と初めて出会った春香は、ある事件に巻き込まれ、命を落としかけた。それを救ったのが輪だ。彼は圧倒的に強力な敵と真っ向から戦い、傷だらけになりながらも勝利を収めて、春香の命を救った。この駅前を歩いている男性を片っ端から捕まえたとしても、輪にかなう者などいないだろう。
 だが、春香は心の中だけではなく、実際に首を横に振る。
 大車輪は強い。よく泣く上、気弱なところもあるが、いざという時の胆力と秘めた力は本物だ。しかし、あまりに生活能力がない。出会った頃の輪は無職だった上、行き倒れていた。彼自身が言うように、変則的な指名手配すらも受けている。先日、ようやくコンビニのアルバイトに就くことができたが、研修期間を終えてもいない。そして、何よりも、指名手配以外に、いつクビになってもおかしくない理由がある。
「うん。やっぱりダメよね。生活能力絶望的だから」
「わしもそこがダメだと思う」
「……全否定!?」
 輪がのけぞった。
「だけど、俺はいつか……いつか……。世界が平和になれば就職を」
「悲しくなる程堅実な夢ね」
 輪の真剣な横顔に春香は微笑する。
「なるほど。その夢を叶える第一歩だぞ、輪」
 袖姫がベンチから腰を上げた。既に空になった皿を春香に手渡すと、彼女は輪の袖を引く。
「……袖姫。まさか」
「そうだ。一ヶ月ぶりか。来たぞ」
「それって……」
 春香の呟きに袖姫が頷き、輪が立ち上がる。スポーツバッグを開き、そこから取り出したラジカセと小物の入った小さな鞄を袖姫に渡すと、彼は周囲を見回した。夕方の公園に、ちょうど人影はない。それを確認して、彼は右の掌をその鳩尾に当てた。開かれた指の隙間からシャツを透けて赤い光が漏れ出る。
「変身っ!」
 輪が叫んだ。服の内側から盛り上がった突起がシャツの肩口を突き破って生じる。それは炎を模した赤い装甲だ。続けて破れた服の下に露出した肌を黒い金属光沢が埋め尽くしていく。ベルトを跳ね飛ばし、ズボンを縦に引き裂いて全身が一回り膨れ上がり、黒と赤の装甲に覆われていく。
 その顔もまた変化していた。赤く変じた皮膚は歪み、蜥蜴にも似た形へと骨格ごと変化する。頬まで裂けた口からは鋭く短い牙が無数に覗き、見開かれた双眸は鋭い瞳孔をすぼめ、獰猛な輝きを宿す。
 着ていたもの全てを飛び散らせ、輪だったものがそこにいた。炎を模した赤い甲冑と、その隙間を埋める金属質の黒い装甲に身を包んだ異形の男だ。
「妖怪超人バンニュード……参上」
 木製の篭手に覆われた腕を交差し、同じく木製の脛当てに護られた足を開き、輪だった者―バンニュードが呟いた。
 その胸から、彼のものとは別の荒々しい呼吸音が聞える。バンニュードの胸には顔があった。胸から腹を埋める程の巨大な赤い禿頭だ。ぎょろりとした大きな瞳が蠢き、バンニュード本人の瞳とは別に周囲を見回す。黒々とした虎髭に覆われた口は白い歯を食い縛っていた
 春香は知っていた。妖怪超人バンニュードと名乗った異形の怪人こそが、妖怪の力を備えた改造人間―妖怪造人間としての大車輪のもうひとつの姿であることを。
「参上はいいが、またやったな」
 袖姫が彼の足元を指差す。そこには変身によって肥大化した肉体が破り捨てた衣服の残骸が転がっている。
「お金ないのに粉々ね」
 春香が同意する。
「しまった! しまったぁ!」
 妖怪超人は屈みこみ、散らばった衣服を拾い集めようとするが、引き裂かれた衣服が元に戻るはずもない。
「……五千円で揃えたのに……。スーパーとユニクロ合わせて四軒回ったのに……」
 それでも、未練がましくボロ衣を拾い、くっつけてみる。当然、繋ぎ合わせることができるわけもない。
「後悔は後にしろ。逃がしたいのか」
 袖姫に篭手を引かれ、よろよろと立ち上がったバンニュードはその姿のままスポーツバッグを漁り、そこから一つのバケツを取り出した。
 バケツには赤い塗料が塗りたぐられ、目のあたりに穴を開けて外が見えるようにした上で、黒いフィルムを貼り付けてバイザー状にしてあった。そして、それをおもむろにかぶる。
「……何? 何でバケツ? マスクじゃないの。ほら、あの、フルフェイスヘルメット改造したのが」
「あの戦いで壊れてしまったんだ。そう……風神との決戦で」
「でも、手作りでしょ。もともと。何故、バケツ?」
「高いんだ。フルフェイスは」
 バンニュードの声はバケツの中でこもっていた。
「でもほら、この前、ディスカウントショップで買ってたじゃないの。格安の奴」
「実はあの時、塗料代を持ってなかったんだ。だから、塗料買うのが遅くなって……。色を塗ったりしたのがまだ乾いていなくて。前よりかっこよくはなってるんだよ!」
「角とかのダンボール細工にこだわってたわよね」
「あの時間がよくなかった……。まさか、このバケツを実戦投入することになるなんて」
 春香はベンチに深く腰を下ろしたまま、手を振って、早く行くようにと指示を出して目を逸らした。
 つい先日、春香はある事件に巻き込まれて命を落としかけた。輪―バンニュードは致命傷とも言える傷を受けながらも彼女を救った。命の恩人だ。しかし、その時の代償はいまだ彼を苦しめている。具体的には貧乏だ。
「……えっと。まぁ、そんなわけで……」
「いいから行くぞ、バンニュード」
 バンニュードがバケツ頭を下げた。そして、その身体が変型していく。四肢が捻じ曲がり、胴の禿頭を中心とするように円を描く。木製の篭手が伸び、同じく伸びた脛当てと混じり合い、禿頭を真中に備えた木の車輪と化す。
 篭手が燃え上がり、その身体が回りながら宙に浮いた。
 禿頭の巨顔を持つ車輪。それは輪入道の妖怪超人であるバンニュードのもう一つの姿だ。彼はこの姿で自在に空を飛び、燃え上がり突撃する。春香はその戦いを目の当たりにしたことがある。
 跳び上がった袖姫がラジカセを片手に車輪の真中に腰掛けた。
「じゃあ、行ってくる」
「えぇ。気をつけて」
 春香の言葉に車輪を回して応じると、バンニュードは飛翔した。燃える車輪が炎の轍を空中に残し、空へと駆け上がっていく。しばらくすると、その姿はビルの向こうに消えて見えなくなった。
 座ったまま、春香はもう一度大きく息を吐く。ベンチの脇には輪が運ぶはずだった荷物がそのまま残されていた。さらに公園には彼の服が粉々になり、飛び散っている。
「……洗剤とかは後回しね」
 腰を上げ、イカ焼きの皿と、輪の撒き散らした服を集めてゴミ箱に捨てると、春香は荷物をゆっくりと持ち上げた。
「時間までに戻らないと……。大車さん、またバイト、クビになるわね」
 呟き、彼女はバンニュードが飛び去った方向へと歩き出した。
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